ドアを開けるな!

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 いつしかオレは「オレからの警告」を忘れた。  プログラマの仕事が忙しくなったからだ。  オレたちの開発した人工知能のプロトタイプが自動車メーカーの目に止まり、実用化を急がれていた。プロジェクトは二年と区切られ、一年ごとにそれなりの結果を出さなければならなかった。  そのプロジェクトにメーカー側から参加している一人がユウカだった。  オレは相手がクライアントでも言いたいことを言ったが、ユウカも負けずに言い返してきた。それもメーカーの地位を使っての圧力ではなく、人工知能とプログラミングの知識でオレに挑んできた。  その知識は豊富で、オレはたびたび言い負かされた。しかし、不愉快を感じたことはなかった。  少しして、ユウカがビッグバイクのライダーだということが分かった。 「駐車場のカワサキは君が乗っているんだって?」 「そうよ」  身長が一六〇センチもないユウカがビッグバイクに乗る姿を想像した。オレの一瞬ニヤけた顔を見て、ユウカが首をかしげた。 「あなたもバイク乗り?」 「ああ、スズキに乗ってる」 「ふ?ん…… スズキ、ね」  どこか小馬鹿にしたような返事にオレは少しむっとした。 「そろそろ暖かくなったからツーリングに行こうかと思っているんだけどね。忙しいから日帰りで」 「いいわね。わたしはよく軽井沢の方に行くわ」  ユウカは旧道の峠の名前を口にした。 「ご一緒させてもらってもいいかな」 「もちろん。ついてこれたらだけど」  ユウカの目が笑っていた。  週末、オレたちは奥多摩から甲府に抜け、山中湖を通り、東京に帰るツーリングに出かけた。  小柄なユウカのライディングは見事なものだった。みかけはラジコンのおもちゃのようだったが。  オレたちは毎週末には半日でもどこかにツーリングするようになった。
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