ドアを開けるな!

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 三回ほどエイプリルフールを迎えたが、ドアを開けるような出来事はなかった。  その日のツーリングには、一人の客がいた。 「妹のリカが将来のアニキに会いたいって」 「はじめまして」  リアシートのリカがフルフェイスのヘルメットを脱いだ。 「あれ?」  ヘルメットを脱いだユウカが笑った。二人はそっくりだった。 「妹って言っても、双子なんだけどね」  同じ顔がオレを見て笑った。  何回かツーリングするうちに、オレはユウカとリカの見分け方を覚えた。  左目の下にほくろがある方がリカだった。  それ以外は顔だけではなく髪質、体格、声、どれも区別がつかなかった。 「今度、コレクションを見せてくださいね」  リカがいたずらっぽく言った。  オレにはバイクのほかに世界のウイスキーを集める趣味があった。 「封を切っていないウイスキーがいっぱいあるんですって?」 「あるよ」  飲んだら乗れないのでアンビバレンツな趣味だったが、コレクションはちょっとしたバー並みにあった。 「見るだけだぞ」 「どうしようかな。わたし、姉ちゃんより飲むから」  オレを見ながら、リカが笑った。  結婚の話が進み、両方の家への挨拶も済んでほっとしていた夜。  スマホが鳴った。 「はい」  リカの小さな声が遠くから聞こえた。 「お姉ちゃん、交通事故で…… 死んじゃった…… 今、病院……」  支離滅裂な言葉が耳に流れ込んできた。 「ユウカが死んだ? ウソだろう!」 「こんなこと、ウソで言うもんか! バカ!」  リカの涙声が真実だということを伝えた。
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