一ノ章

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私は、稲荷寿司が好きだ。 あの油揚げもあの酢飯も。 倉稲魂尊様はお稲荷様として、伏見稲荷に祀られている。 ……一応。 伏見稲荷はあの平安京が生まれる前からあるのだ。 えっへん。凄いだろー。 なんて冗談はさて置き、私はたった今大ピンチに陥っているのである。 緊急事態だ。 どんな危険に陥っているのかと言うと、稲荷寿司が手に入らない。 最悪だ。 前は伏見稲荷に御参りに来た人から手に入れていたが、最近御参りに来た人が稲荷寿司と共に火を点ける道具を入れやがった。 糞ぅ。あ、本音が漏れてしまった。 私は何より炎が嫌いだ。 炎が燃えているのを見ると、恐怖を感じる。 私が……恐怖を感じるのはお稲荷様こと倉稲魂尊様と炎だけ。 炎は……何もかも奪い去ってしまうから。 大切な物も、嫌いな物も。 炎に精神傷がある。 ああ。物思いに耽ってしまったようだ。 とにかく、稲荷寿司を手に入れる方法を考えなくては。 まず、火を点ける道具を克服する。 無理な話だ。 気付かれて火でも点けられたら如何する。 ……金でも頂くか。 それで、稲荷寿司を買いに行く。 それが、一番安全な方法だ。 決まったなら実行に移さなければ。
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