マジック02 恋の十字架

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 ジンは、俺がどう言ってもなにを言っても、きっとじいちゃんを庇うのだろう。  そう思うと俺の悔しさは増して、きつく唇を噛んで耐えるしかなかった。   「だから、兄のように優しく接してくれた仁を愛してしまうのは、自然な流れだった。けれど彼は、その思いを打ち明けることさえ許されない、神父という道に進んでしまった。光雄は……募る思いに苦しんでたよ」 「それで代わりにジンを抱いたんだったら、俺はじいちゃんを軽蔑する」  悔しくて涙目になったのがわかった。  ジンは俺を見て、困ったように笑った。 「そうでもしなければ、光雄は気が狂いそうだったんだよ。光也も、もう理解できるんじゃないか? 人を狂わせるほどの恋しさを」  ジンはじいちゃんは庇うくせに、俺には意地悪を言う。  悔しかった。でも、言い返せなかった。 「そして仁神父は、光雄の告白を聞く前に、病で死んでしまった。光雄の思いはやり場を失い……僕を見ることさえ苦しくなったんだ」  僕では光雄を救えなかった。  そう聞こえたのは、きっと俺の幻聴じゃない。 「……けれど、そんな孤独な光雄を救ってくれる女(ひと)が現れた。お前の、光也の祖母だ」  どうしてジンは、憎い恋敵のはずの仁神父やばあちゃんのことを、そんな風に優しく語れるのだろう。 「お前の祖母に出会って、可愛い女の子が二人も生まれた。光雄は初めて、孤独を忘れられたんだ。景子の出産で妻を失うことになってしまったのは悲劇だったけれど、女の子っていうのは賑やかだから、景子と多恵子の成長が、光雄の心を救った」  自分のいない幸福な世界を、なぜそんなに嬉しそうに語るのだろう。 「やがて二人が大きくなって……。光也、お前が生まれた。僕は、何十年とこの家にいたけれど、お前が生まれたあの初夏の朝より、幸せな朝はなかったよ」  どうして――。  どうしてジンは、こんなにも優しいのだろう。    じいちゃんより、誰よりも孤独だったはずなのに、どうしてこんなに温かい。  俺は、こみ上げる涙を抑えるのが苦しかった。 「優しく美しく育った娘たち、その娘が育てた、心根の真っ直ぐな光也。可愛い孫を抱けて、最期は手元に残ってくれた愛娘に看取られて……光雄は本当に幸せな人生を終えたんだ」  俺には無理だと思った。こんな風に、無償の愛を誰かに向けることは。
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