マジック01 魔法のランプ

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 耳に痛いような蝉の声が、全身に降ってくる。  気でも違ったのか? と文句を言いたくなるのは、頭のテッペンに突き刺さる直射日光のせいだ。 「……あ、あちぃ……」  駅からの道中、何度零したかわからない愚痴。それでも懲りずに俺は叫ぶ。 「暑いし……うるせぇんだよ! 蝉!」  みぃーん、みぃーん!  じー、じー!  すいっちょんすいっちょん! 「……」  俺の叫びは、蝉どもにあっさり一蹴された。  都会の児童公園で、孤独に鳴き叫ぶ蝉相手なら勝てたかもしれないが、山間部の蝉は数が多すぎる。こんな大集団相手では、太刀打ちできっこない。  負け惜しみでチッと舌打ちを鳴らし、蝉も暑さでやられやがったな、と挑んだ勝負は俺から引いてやった。  季節は夏。高二、十七歳の夏休み。  だと言うのに、俺の心中は梅雨を引きずり、鬱々としていた。蝉に喧嘩をふっかけるほど。    口をひん曲げて結び、道に張りつきそうな重い足をなんとか前に出す。    真夏にこの坂道は、そうとうきつい!    坂道、というかほぼ山道だ。一応アスファルトで舗装された道の両脇には、大木が並んでいる。時間によっては木陰ができて涼しいこの道も、今はちょうど真昼で、太陽は頭の真上。木陰など、どこかに消えてしまった。  日光がきついのと坂道がきついのとで、顔が勝手に下を向いてしまう。それが重い気分のせいなのか、ただ暑くてうな垂れているだけなのかは――考えたくなかった。  髪の中から流れてくる汗を拭いながら顔を上げ、目的地までの距離を測る。口の中はカラカラに乾いて、そろそろ到着できないと生きたままミイラになりそうだ。  目指す白亜の洋館が、遠くに小さく見える。真上から刺す真夏の太陽に目をやられそうになり、右手を顔の上にかざす。  陽炎越しに輪郭がぼやけた目的地は、洋風の木造大邸宅だ。いかにも旧ナントカ邸、といった感じで、薄緑の切り立った屋根と、真っ白な壁が周りから浮きまくっている。  日本昔話に出てきそうな、山間の田舎町にはまったく似合わないその洋館は、俺の母親の実家だった。    大分近づいた屋敷の、洋風な門構えが見える。そこにかかった、重厚で渋い木製の表札に顔をひそめる。門は洋風なのに、表札は縦書きの筆書きで『星野』と書かれていた。 「あいかーらず、なんかチグハグ……」
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