マジック02 恋の十字架

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 料理が温まるたび、キッチンに美味そうな香りが広がり、自然と鼻歌が零れた。母親には口が裂けても言えないが、料理の味は景子叔母の方が好みだった。  温めた料理は、キッチンの隣のダイニングに運んだ。ダイニングルームだけで、東京のマンションのリビングダイニングと同じぐらい広い。  映画にでも出てきそうな、広くて豪華なダイニングルームの真ん中に置かれた、木製のダイニングテーブルもまた大きくて豪奢だ。そこで一人、チンしたタッパを並べ、食事しているのもなんとも不思議な気分だった。    時刻は、昼を過ぎていた。朝方母親から携帯に着信があったが、爆睡していた俺はまったく気づかなかったので、後で文句を言われるだろう。  ダイニングルームにも、大きな窓がある。シャワーを終えた後に、この窓も開け放しているので、風と蝉の鳴き声が入ってきている。  大きな植木がみっしり生えた庭は、小さな森のようだ。草花は今が盛りと生い茂り、風にそよそよと揺れている。  せっせと料理を口に運び、モグモグと口を動かしながら、ぼおっと窓の外の夏らしい、爽快な光景を見つめる。  そうしていると――自分が不思議な長い夢の中にいるような感覚に陥った。    山間の田舎に不似合いな、古い白亜の洋館。  そこを建てたのは、異国からやって来た魔法使い。    そして魔法使いが、俺のじいちゃんに魔法のランプを与え、じいちゃんはその魔法のランプの精と――。    俺は、美味しいハンバーグを口いっぱい頬張りながら、眉間に皺を寄せた。  子供向けの絵本だとしても、滅茶苦茶、支離滅裂のひどい話だ。てゆうか、子供向けには無理か? 十八禁では。    俺は難しい顔で昼飯を食べ終えると、食器をキッチンに下げ、タイル張りのシンクに、後で洗えばいいや、と放り投げた。こんなところを母親に見られたら――小言ではすまないだろう。  それから、一階の書斎の隣、ちょうどダイニングルームの向かいの部屋に向かった。  そこは、十五畳ほどの広い和室だ。洋風の豪邸の中に突如現れる畳の部屋。この屋敷は、どこかちぐはぐだ。  閉め切った和室を開けると、ムッと熱気が流れ出し、急いで窓を開けた。    和室は昔、じいちゃんとばあちゃんが夫婦で使っていたらしい。その部屋は仏間も兼ねていて、扉の横にはどっしりと黒く輝く仏壇がある。
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