マジック02 恋の十字架

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 俺は抱いてしまった疑問の答えを探ろうと、不躾にも仏壇の中を漁った。じいちゃんとばあちゃんの位牌、じいちゃんの両親の位牌、そしてじいちゃんのばあちゃんの位牌が整然と並べられている。外国人のルカさんの位牌は、さすがになかった。  仏壇の中は景子叔母がきれいに整理しているので埃一つなく、俺は中を漁ってもそれを確認するだけになった。  なにか、じいちゃんの過去を知るものはないだろうか、と頭を捻っていると、仏壇の下部の小さな引き出しに目が止まった。  二つ並んだ引き出しを、右側から開ける。お経やお数珠が入っていた。そこはすぐに閉じ、左側の引き出しを開けた。  左側の引き出しには、黄ばんだメモ帳が数冊と、古そうな十字架、らしきものがあった。  らしき、と思ったのは、それが俺にはすぐには十字架だとわからなかったからだ。  俺が知る十字架より、線が二本多い。しばし見つめ、思い出す。それは、俺の部屋から見える、裏山の教会の十字架と同じ形だった。  十字架だとわかると、複雑な気持ちになった。仏壇に十字架とは、どちらの神様にもあんまり失礼じゃないだろうか。  この屋敷はなにもかも、どこかおかしい。  手にした十字架を顔の前にかざし、マジマジと眺める。おそらく銀素材の十字架は、手入れされていないため、かなり黒ずんでいた。  これは、ルカさんのものだったのだろうか。古そうだし、お坊さんにお経を上げてもらったじいちゃんが、教会にお世話になっていたとも信じがたい。俺の母親や景子叔母が、クリスチャンだとも聞いたことがない。  景子叔母に電話しえ聞いてみたかったが、彼女はこれから家族になる人たちの京都案内で忙しいだろう。  俺は、なにか関係があるかもしれないと期待して、あの裏山の、これと同じ形の十字架を掲げた教会を訪ねてみることにした。  なにかに急き立てられるように、白亜の洋館を飛び出す。  裏山の教会へは、うちに通じる坂道をさらに上る。ほとんど山の頂上に近いため、傾斜はきつく、十分ほどの道のりで汗びっしょりだ。さっきのシャワーが無駄になる。  汗だくになって着いた先は、幼稚園の園庭だった。今は夏休みなので人影はなく、入り口の門は硬く閉ざされていた。
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