マジック02 恋の十字架

7/24
前へ
/61ページ
次へ
 そしてあの家から見えた十字架は、幼稚園と同じ敷地内にある小さな教会の、朱色の丸い屋根に飾られていた。幼稚園の名称を門の脇の石柱で確認する。どうやら、教会の付属幼稚園らしい。  幼稚園が休みなら、教会も開いていないかもしれない。少しガッカリしながら、それでも諦めきれず敷地の西側、幼稚園の入り口から左に回り込んだ。するとそちらに狭い通用口があり、教会への通路は開いているようだった。  普段なら入りづらそうな神聖な場所だが、ズカズカと踏み込む。  教会正面の、大きな両開きの扉は閉まっていたが、鍵はかかっておらず、俺は意を決し、扉を開けた。  中からキンと冷えた空気が流れ出し、俺の汗だくの顔を撫でる。  扉の中は小さなホールのようで、人もおらず、静まり返っていた。声をかけたらよいのか悩んでいると、向かいにさらにもう一枚扉があったので、そちらも開けてみることにした。  二つ目の扉は見た目よりずっと重く、幾何学模様が彫刻された木の扉は、ギギッと低く重い音を立てた。  扉を開けると、赤茶色の絨毯が敷かれた先、真正面に祭壇があった。俺にはまったく知識のない、宗教画と思われる絵が数枚かけられ、それらはどれも金地の一見派手そうな色合いなのに、気品高く厳かだった。  俺は――やっぱり夢を見ているのだろうか?  祭壇の前に、金地の宗教画から抜け出たような、凛とした後姿があった。  天使――。  華奢な後姿に目を凝らす。  そしてホッと息を吐いて、自分の想像力の逞しさに呆れた。  祭壇に向かって頭を垂れ、静かに祈る姿には羽がありそうだったが、よく見ると人間の、少年の後ろ姿だった。  だが場違いなのはわかった。静粛に祈る人の姿と神聖な空気に気おされ、そっとその場から離れようとした。  だが、俺の足は柔らかな絨毯に縫いつけられて動けなくなった。  少年が振り返り、俺はあっと小さく声を上げた。  少年は――俺が昨晩抱いた、ジンだった。
/61ページ

最初のコメントを投稿しよう!

33人が本棚に入れています
本棚に追加