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さらに偶然は重なり――こっちはご近所だから当然か?――神父様は星野家とも面識があり、俺に会えたことをすごく喜んでくれた。
そして神父様に案内された、幼稚園の中にある質素な休憩室で、冷たいハーブティーをご馳走になっている。
俺は状況把握が追いつかず混乱して無口だが、知り合い同士の二人の会話は盛り上がっていた。その間、明仁くんと目が合うたび、俺の動悸はおかしくなる。
なぜか明仁くんは俺に興味があるようで、楽しそうに輝く瞳を向けられるたび、昨夜のいやらしいジンの面影と重なって、俺を落ち着かなくさせた。
「光也さんて……景子先生に似てますね」
「え? そう?」
明仁くんは声までジンとよく似ていて、俺の動揺は収まらない。しかし髪の色はジンと違って艶やかな黒色だし、肌は清楚な象牙色だ。
「景子先生も美人ですもんね」
サラリと褒められ、元々動揺している俺はおかしな顔になった。多分。
多分、というのは明仁くんが慌てたからだ。
「あ! 男の光也さんに美人は変ですよね! なんて言うのかな? 都会の人だからおしゃれだし……イケメン?」
神父様に聞いたところでは、明仁くんの家は町一番の資産家で、由緒ある旧家らしい。
すぐに納得した。いかにも品の良い、育ちの良さそうな少年なのだ。着ている水色のポロシャツはシンプルだけれどブランド物で、薄いベージュのチノパンも安物には見えない。
そんな彼が、イケメン、などと普通の今時男子高校生の言葉を口にするのが、何となくおかしかった。
俺が笑うと、明仁くんはさらに狼狽した。
困った様子は笑顔と同じぐらい可憐で、彼がジンではありっこないと俺に教える。
ジンが、鮮やかなピンクの胡蝶蘭なら、明仁くんは、純白のマーガレットだ。
て、なんで男を花にたとえてるんだ、俺。
俺がまったく別のことでうなだれると、明仁くんはまたひどく困惑してしまった。
そこに神父様が笑い声を忍ばせながら、優しくフォローを入れてくれた。
「そりゃあそうですよ。光也君のおじいさん、光雄さんも近所でも有名な二枚目、今で言う『イケメン』だったんですから」
「近所でも有名、ですか?」
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