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「ええ。山の上の『星の王子様』、なんて騒ぐ女性たちもいましたよ。この田舎にあのお屋敷は、まるでヨーロッパのお城みたいに見えたんでしょうね。私がここに赴任した頃ですから……五十年は前になりますけど」
「それ、僕の祖母も言ってたくちですよ。祖母も、星野さんちのおじい様に憧れてたって」
「ああ、明仁くんのおばあ様は、幼なじみですもんね、光雄さんと」
「そうなんですか?!」
重なり続ける偶然に、思わず大きな声を出してしまった。しかし二人は、ニコニコしたままだ。
こんなに縁が繋がるのが、都会育ちの俺には不思議だったが、田舎とはこういうものらしい。明仁くんは気にした風もなく続けた。
「もう何十年も前に亡くなっているんですけど、僕の祖母には兄がいまして。その兄が、年の近い光雄さんと親しかったらしいんです。その縁で、僕の祖母もよく遊んでもらったって言ってました。ちなみに、祖母の兄は、この教会の先代の神父だったんですけどね」
「へぇ……」
俺は数々の偶然と、初めて聞くじいちゃんの昔の話に、驚きと少しの不安を覚えた。
これが一昨日より前なら、じいちゃんの昔の話としてワクワクしたかもしれない。けれど今はジンのことがあるせいで、とても楽しんで聞く余裕はなかった。
じいちゃんには、俺の知らない大きな秘密があるのだ。
「そういえば……」
神父様がハーブティーのグラスをテーブルに置き、なにか思い出したのか立ち上がった。
予感めいたものを感じ、俺の胸はざわついた。
神父様は、休憩室から隣の部屋へ続く扉を通って、一度姿を消した。そして少ししてから、分厚い本を手にして戻ってきた。
神父様が持ってきたのは、色褪せて元の色がすでにわからなくなっている、埃っぽいアルバムだった。
「先代の神父……明仁くんの大叔父様だね。彼が神父をされていた昔の写真に、まだ光也くんぐらいの年頃の光雄さんが、写っているのがあった気ような……」
神父様がテーブルの上にアルバムを置くと、かび臭い臭いが立った。
正面の明仁くんは、それも楽しそうに笑ってアルバムを開き始めた。
しかしなぜだろう。俺は悪い予感でいっぱいで、アルバムを、じいちゃんの過去を辿るのが怖くなっていた。
じいちゃんとジンの過去を知りたくて、ここにやって来たくせに――。
「……ああ、この写真。これが光雄さんじゃないかな?」
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