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その後、俺は夜が更けるのをまんじりと待った。
いつどうやって家に帰ったかは、覚えていない。二人に失礼な態度を取っていないことを、祈るばかりだ。
家に帰ってきて、二階のあの部屋に戻った俺は、錆びついたランプの前から動けないでいた。
外はすでに陽が落ち、北側の窓から見える山は真っ黒な大きな影となって、あの教会の十字架も、とっくに見えなくなっている。
朝の母親からの電話に出なかったせいで、夕方携帯が鳴った。しかし俺はそれもまた出なかった。すぐ後に、景子叔母からも着信があったがそれにも出なかった。
ランプが輝くのを、ひたすら待っていた。
ジンが言うとおり、日が暮れてから何度かランプを擦ったが、奴はまだ現れない。
昨晩奴が出てきた時は、ランプが別物のように光り輝いていた。だから俺は、ランプが輝く時を待ち続けた。
ローチェストに置いたランプを、絨毯の上で胡坐をかいて睨む。
背後のベッドサイドの棚に放り投げた携帯が、三和音のメロディを歌い出した。おそらく、母親だ。心配して何度もかけてくるのだ。さすがに、出ないとまずいかと悩む。
その俺の迷いを突くように、ランプが光る。
昨夜と同じ白い煙が、細い口先からモクモクと溢れ出す。
カタカタっとランプが揺れ、吹き出た白い煙が――人の形を象った。
「……やっぱり今日も、お前は僕を呼んだね」
白い煙は、魔法のランプの精――ジンになった。
今夜もジンは妖艶に微笑み、高慢な態度で俺を見下ろす。
でもどうしてだろう。俺はジンの瞳の中に、底知れぬ寂しさを見た。
俺は立ち上がり、ジンと正面から向き合った。
勝気な瞳が俺を見上げる。やはり明仁くんと似ているようで、まったく似ていない。
赤く濡れた口の端は片方引き上がり、溢れんばかりの色気に眩暈がしそうだ。輝くエメラルドブルーのボレロの下の褐色の肌の滑らかさは、昨晩散々教えられた。
俺はまた誘惑に負けそうになりながら、じいちゃんの部屋で見つけた十字架を、ジンの眼前にかざした。
大きな瞳が、大きく揺れる。
「……それは」
「裏の教会に行って聞いたよ。クリスチャンじゃないじいちゃんが、十字架を後生大事に持ってた理由」
俺は、十字架を明仁くんに見せた。あの教会の信者である彼の祖母は、兄とお揃いの十字架を持っていると言う。
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