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ジンは俺を睨んだまま、答えなかった。
きつい視線で睨まれているのに、俺はちっともジンが怖くなかった。
「ひでぇ……」
ジンが、とても悲しそうだったからだ。
「そんなの、ひでぇよ。自分の気持ちが報われないからって、ジンを仁さんの身代わりにしたってことだろう?」
じいちゃんがどれだけ寂しかったか、どれほど仁さんを恋しがったか、俺には想像もできない。
それでも、誰かを誰かの代わりに愛するなんて、残酷な仕打ちだと思った。
俺を睨むジンの瞳が、潤んだように見えた。
「本当に、光也にはガッカリさせられるよ。お前は顔と体以外は、光雄とまったく似ていなっ……」
強がる顔を見ていられなくて、憎らしい台詞を聞きたくなくて、掴んだジンの腕を引き寄せ胸の中に隠した。
「そうだよ! 俺はじいちゃんじゃない!」
思わず突いて出た言葉に、俺自身も愕然とする。
そして腕の中のジンも、脱力してダラリと両腕を垂らした。
「……ふふ。本当に光也は……」
俺は許可も得ず、ジンにキスした。
ジンにガッカリされたくなかった。
俺がじいちゃんじゃないから、と。
覚えたてのキスを、教えた張本人にそっくり返す。
ジンがじいちゃんを思い出す暇がないよう、一ミリも唇をずらさず激しく口づける。
「……んんん……」
ジンは苦しそうに喘ぎながら、それでもまったく抵抗しなかった。
全てを諦めたかのように身を投げ出すジンが、切なくて悲しくて、胸が痛くてどうしようもなかった。
苦しさに喘ぎ唇を離すと、さっきよりもっと潤んだジンの瞳と出会った。
「俺は、じいちゃんじゃないからな……」
もう一回、念を押す。
どうしてこんなにムキになっているのか。
目の前にジンがいて、ジンと体を絡ませている状態では、なにも考えられない。
ただ切なくて、苦しくてやり切れなくて――痛くてたまらなかった。
ジンは俺を悲しそうに見つめ、そして瞳を閉じた。
俺は、じいちゃんじゃない。
それを呪文のように心の中で繰り返し、口づけながらジンを横抱きにした。
そのままジンをベッドに運び、そっと下ろす。
「……随分、洒落た真似をするじゃないか」
横たえられたジンは、少しだけ笑っていた。
「うるさいな。少しは、格好つけさせろよ」
ふてくされながら、ジンに覆いかぶさる。
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