34人が本棚に入れています
本棚に追加
ハーフパンツの中に手を入れ、あの十字架をこっそりなぞった。ひやりとした金属の感触が、俺の心の体温を奪う。
仁さんを好きだった、じいちゃん。
仁さんの代わりにされた、ジン。
代わりにされたのに、じいちゃんを好きだった――ジン。
そして、そんなジンに恋した――俺。
俺は知ってしまった。初めて会った時、じいちゃんにそっくりな俺の姿に、ジンが目を輝かせた理由を。
あれは目を輝かせていたのではなく、数十年ぶりに会った、じいちゃんの面影に浮かんだ涙が、光に反射しただけだった。
ジンは何十年も、じいちゃんだけを待っていた――。
「ごめん。悪いけど、あれは大切なものだから……」
報われない恋は、俺を最悪の人間に貶めた。
明仁くんのひどく悲しそうな視線が、俺のわずかに残った良心を突いた。
それでも俺は――誰かを思い遣る心を、取り戻せなかった。
「だから……人には、貸せないんだ」
こんな残酷な嘘を吐いたことはない。
もう明仁くんを見ることもできなかった。
こんな汚い八つ当たりがあるだろうか。
俺の初恋は、甘酸っぱさやときめきとは無縁だった。
なにをどうしたって、報われるわけがない恋。
苦しくてやり切れなくて、どうにもならない苛立ちが、俺を支配した。
初恋の相手はこの世のモノではない上に、何十年前から今に到るまでずっと、別の男だけを愛し続けている。
ジンは決して、俺のものにはならない。
ジンを思って俺は、恋の深い闇に呑み込まれた。
最初のコメントを投稿しよう！