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しかし景子叔母は、それを咎めなかった。
『……光也、なにかあったの? 声、元気ないよ?』
心配そうに聞かれ、黙ってしまった。しかし沈黙が続けば、余計に心配をかけてしまうので、慌てて言葉をひねり出す。
「……暇で退屈で、寝まくってるからじゃない?」
『そうなの?』
景子叔母は、まだ心配そうだった。
「うん。することないしさ」
俺がわざとらしいぐらい明るい声を出すと、景子叔母は俺の心情を察してくれて、そっか、と声の調子を明るく切り替えた。
『そう言えばさ……あのランプ、どうだった?』
「え……?」
『ランプの精、出てきた?』
なにも疑っていない景子叔母は、楽しそうに訊いてきた。
「で、出てくるわけないじゃん! ただのランプだよ?!」
『う~ん……やっぱり、お父さんが言った通り、時間が経ちすぎちゃったのかなぁ?』
「……どういうこと?」
景子叔母は、俺が想像していたのとはまったく違う反応を寄越した。
この場合、『やっぱりお父さんボケちゃってたのかな?』とか、『からわれたのかな?』ではないのか。
景子叔母は、楽しそうなまま答えた。
『お父さん……光雄おじいちゃんが言うにはね、魔法使いの作る道具には、寿命があるんだって。製作者の魔法使いが、生きてる間は使い放題なんだけど……作った魔法使いが亡くなってしまうと、徐々に魔力が弱まっていって、いずれ使えなくなってしまうらしいの』
俺は――携帯を落としそうになった。
『光也?』
「じゃあ……あのランプはもう、寿命だってこと?」
『そうなんじゃない? ルカさんが亡くなって、もう半世紀は過ぎてるしねぇ。おじいちゃんのおじいちゃん、だもん』
景子叔母の言葉に、心が凍りついた。
『だけど、それも全部おじいちゃんが晩年話してたことだからね、本当だとは思えないよ?』
景子叔母は不思議な話を、亡くなったじいちゃんの楽しい思い出と認識している。
だが俺には、それはじいちゃんの与太話なんかじゃなかった。
それから景子叔母は、予定より早く帰って来ることを俺に伝えた。俺はそれに何とか答え、急いで電話を切り上げた。
景子叔母の言葉が本当ならば、今すぐジンに会わなくてはいけない。
電話を切った俺は、二階の俺の部屋へ駆けた。
日はとっくに暮れていた。
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