マジック02 恋の十字架

21/24
前へ
/61ページ
次へ
 暗くなった部屋に灯りもつけず、あのランプの元へ駆け寄り、優しく撫でた。暗いせいでランプが輝いていたかわからない。だから祈るような気持ちで、何度も撫でた。  願いは通じ、ランプは白い煙を吐き出した。  吐き出された白い煙が人の形を象ると、煙ごと抱きしめた。  白い煙が、俺の腕の中でジンになった。 「……お前は、どうして僕を呼ぶのだろうね」 「ジンに会いたいからだよ!」  ジンの声は聞いたことのない、しんみりとしたものだった。  しおらしいジンなんて、ジンらしくない。  俺はジンの顔を覗き込んだ。 「なぁ、お前はもう寿命なのか?!」  俺が怒鳴るように聞いても、ジンは悲しく微笑んでいた。  その悲しい笑みに、愕然とさせられる。  ジンの肩を掴む腕から、力が抜けた。 「ルカが死んで……どれぐらい経っただろうね。とっくにランプの魔力なんか、消えてたよ。それなのに、どうして僕は消えないんだか……」  そんなこと、俺にだってわかった。  きっと、ジンだってわかってるはずだ。 「……じいちゃんに、会いたかったからだろう? いつかまた、じいちゃんがお前を呼び出すんじゃないかって信じて、じいちゃんに会える日を待ってたんじゃないかよ!」  ジンは、俺から目を逸らした。  凛とした横顔に、悲しいほど美しい涙が一筋、伝った。  ジンは、ただひたすらじいちゃんに会うために、会いたいがために、一人で待ち続けた。  冷たく古びた、ランプの中で――。    気が遠くなるような時間を、たった一人で――。  しかしその待ち続けたじいちゃんは去年、最期までジンを呼び出さずに亡くなった。 「じいちゃんはひでぇ! どうしてジンを呼び出さなくなったんだよ! ジンはずっと待ってたのに!」  俺はじいちゃんに腹が立って、悔しくてたまらなかった。  しかしジンは静かに、すべてを悟った表情で語った。 「仁神父があまりにも早く亡くなってしまったから、よく似た僕を見るのも辛かったんだろうね……。光雄は、仁神父を心から愛していたから」 「そんなの……じいちゃんの勝手じゃないか!」 「光雄は、ずっと寂しかったんだ。両親をまだ五つで相次いで亡くして、祖母もとうに亡くなっていたから……。わかるだろう? 今から半世紀も昔のこの田舎町で、外国人の祖父との二人暮らしが、どんなに心細かったか」
/61ページ

最初のコメントを投稿しよう!

34人が本棚に入れています
本棚に追加