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暗くなった部屋に灯りもつけず、あのランプの元へ駆け寄り、優しく撫でた。暗いせいでランプが輝いていたかわからない。だから祈るような気持ちで、何度も撫でた。
願いは通じ、ランプは白い煙を吐き出した。
吐き出された白い煙が人の形を象ると、煙ごと抱きしめた。
白い煙が、俺の腕の中でジンになった。
「……お前は、どうして僕を呼ぶのだろうね」
「ジンに会いたいからだよ!」
ジンの声は聞いたことのない、しんみりとしたものだった。
しおらしいジンなんて、ジンらしくない。
俺はジンの顔を覗き込んだ。
「なぁ、お前はもう寿命なのか?!」
俺が怒鳴るように聞いても、ジンは悲しく微笑んでいた。
その悲しい笑みに、愕然とさせられる。
ジンの肩を掴む腕から、力が抜けた。
「ルカが死んで……どれぐらい経っただろうね。とっくにランプの魔力なんか、消えてたよ。それなのに、どうして僕は消えないんだか……」
そんなこと、俺にだってわかった。
きっと、ジンだってわかってるはずだ。
「……じいちゃんに、会いたかったからだろう? いつかまた、じいちゃんがお前を呼び出すんじゃないかって信じて、じいちゃんに会える日を待ってたんじゃないかよ!」
ジンは、俺から目を逸らした。
凛とした横顔に、悲しいほど美しい涙が一筋、伝った。
ジンは、ただひたすらじいちゃんに会うために、会いたいがために、一人で待ち続けた。
冷たく古びた、ランプの中で――。
気が遠くなるような時間を、たった一人で――。
しかしその待ち続けたじいちゃんは去年、最期までジンを呼び出さずに亡くなった。
「じいちゃんはひでぇ! どうしてジンを呼び出さなくなったんだよ! ジンはずっと待ってたのに!」
俺はじいちゃんに腹が立って、悔しくてたまらなかった。
しかしジンは静かに、すべてを悟った表情で語った。
「仁神父があまりにも早く亡くなってしまったから、よく似た僕を見るのも辛かったんだろうね……。光雄は、仁神父を心から愛していたから」
「そんなの……じいちゃんの勝手じゃないか!」
「光雄は、ずっと寂しかったんだ。両親をまだ五つで相次いで亡くして、祖母もとうに亡くなっていたから……。わかるだろう? 今から半世紀も昔のこの田舎町で、外国人の祖父との二人暮らしが、どんなに心細かったか」
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