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自分のいない世界で幸せになっていく恋人を、ただ見守り、祝福することなんて絶対にできない。
「でもじいちゃんは……その幸せな人生の中で、お前を忘れたんだぞ! 自分だけ幸せになって、ジンを呼び出さなかった! 勝手にお前を誰かの身代わりにして、散々ヤりまくった後はポイ捨てなんて、ひどすぎるじゃんか! ジンはじいちゃんに怒れよ! そんで……」
じいちゃんのことなんか忘れろよ!
そう続けたかったのに、言えなかった。
ジンにキスされ――止められた。
「……本当に、光也は光雄と全然似てない」
悲しそうな泣き笑いの顔で言われ、俺は悔しくて悔しくてたまらず、子供のように地団駄を踏んだ。
「そうだよ! 俺はじいちゃんじゃない! 俺は、じいちゃんみたいにジンを一人になんかしない! 毎日毎晩呼び出して、俺が死ぬまで何度でもジンを抱くよ!」
「ふふ。光雄は、そんなこと言わなかったなぁ」
「だって俺は、ジンが好きなんだよ! だから、何時でもどこでも会いたいよ!」
ジンが欲しかった。
ジンを失いたくなかった。
ジンを強く抱き寄せ、力任せに抱きしめた。
そして――その素肌の冷たさにゾッとする。
「ジン……?」
昨日まで、燃えるように熱い艶やかな肌だったのに。
「光也は、僕のどこがいいんだか……」
ジンは、消えていこうとしていた。
俺は特別な力があるわけではない。けれどわかった。
ジンの体から、命がサラサラと流れ出ていくことが――、
「本当だよ!」
俺は怖くて悲しくて、めちゃくちゃにジンをかき抱いた。
「ジンはスケベで淫乱で……、俺の大事な童貞返せよ!」
腕の中のジンは、俺の乱暴な腕を嫌がることもなく、クスリと笑った。
儚げな様子が悲しくて切なくて、溢れる涙をもう止められなくなった。
「ドスケベの変態のくせに……、顔はすげぇ可愛いし、本当は優しいし……、その上じいちゃんのこと何十年も思い続けるくらい一途なんて……ずりぃよ! 惚れちゃうに決まってんじゃん!」
どんなに強く抱いても、ありったけの思いをぶつけても、ジンの体から流れ出していく命は、きっと止められない。
ジンの体は、どんどん透けていっていた。
ジンが――消えてしまう。
「行くなよ! ジンが好きなんだ!」
「……最期に、光也に会えてよかった」
ジンの甘い、優しいアルトの声が悲しかった。
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