34人が本棚に入れています
本棚に追加
ジンの体はもうほとんど透けてしまって、ジンの向こうの絨毯や、ローチェストが透けて見えるほどだった。
「いやだ……、ジン、行かないで……」
「僕が消えたら、やっと光雄に会えるかな……」
ジンは消えて無くなってしまう直前まで、じいちゃんのことを思っていた。
最期の最期まで、じいちゃんのことを思い続け――逝った。
腕の中から、ジンの姿が消える。
温かな肌も、柔らかい髪も、大きな瞳もアルトの声も、跡形もなく消え去った。
ほんのかすかに残ったのは、甘い花の香り。
「ジン!」
俺は、絨毯に崩れ落ちた。
ジンの甘い残り香も、すぐに消えてしまう。
絨毯に両手をつき、声を上げて泣いた。
泣いても泣いても涙は止まることなく、溢れ続けた。
まだこんなにジンが好きなのに、ジンは消えてしまった。
俺はジンに体を奪われた。けれどジンが奪っていったのは、それだけじゃない。もっと大事な、心も全て奪われたのだ。
初恋だった。
生まれて初めての、身を焦がす恋だった。
ジンは頼んでもいないのに、セックスがどれほど気持ち良いのか教えた。
ジンが俺に教えたのが自堕落な快楽だけだったら、俺はきっとこの夢のような出来事を真夏の夜の夢として、いつか忘れることができただろう。
けれどそうじゃないから、こんなにも苦しい。
ジンは俺に恋を教えた。
心が全部相手に向かい、苦しいほどその人のことで体中がいっぱいになってしまう、本物の恋を――。
苦しくて切なくて悲しくて――。
それでも俺は十七の夏、ジンに出会って最高に幸せだった。
最初のコメントを投稿しよう!