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明るい日差しが目に痛い。
そして、けたたましく歌う携帯の着信音が、耳に痛い。俺はだるくてしかたない腕を伸ばし、どこかにある携帯を探った。
ちょうど頭の真上で掴まえた携帯電話を、片手で強引に開く。
「……はい?」
『光也! あんたどこにいるのよ?!』
朝一番の大音量は、母親の金切り声だった。
『一体何してるの?!』
う、うるせぇ――。
最初はゲンナリしたが、母親からの電話に出るのは二日ぶりだと思い出し、そう思った自分を反省した。
「……ごめんなさい」
『どこで何してるのかって聞いてるのよ! ずっと電話に出ないで!』
よく聞いてみたら、母親の声は少し涙声のようだった。
俺の反省は深くなった。
「ごめん。じいちゃん家にいるよ」
『嘘おっしゃい! だったらどうしてずっと電話に出なかったのよ?!』
「……怒られるけど、寝ないでゲームしたりしてて、母ちゃんから電話あった時は、大体寝てた」
嘘を吐くのは心苦しかったけれど、本当のことも話せない。
『まあ! あんだけだらしない生活するなって言ったのに! やっぱり景子がいないせいね!』
だが普段の行いが悪いお陰か、母親はあっさり信じた。しかも母親の怒りは、上手い具合に景子叔母に向かってくれた。
いつもはうるさくてウンザリする母親の愚痴も、今日は何だか安心する。泣きすぎたせいか――。
「本当にごめんなさい。今日からは、ちゃんとします」
珍しく素直に母親に従ってみた。
あら、と母親は驚いた。
しかし従順になってみると、逆に母は心配し、具合でも悪いのか、とか、なにかあったのか、と矢継ぎ早に言及してきた。
そして俺は、結局いつもと同じように逆ギレすることになった。
「あ~、もうわかったよ! まだ起きたばっかだから、後でまた電話するから!」
さっきの反省はすっかり忘れ、一方的に電話を切った。母親が俺の名を、ヒステリックに呼んでいたのは無視する。
母のパワーは、やはり見くびれない。
朝からどっと疲れ、クイーンサイズのベッドにもう一度寝転んだ。
広いベッドには、誰もいない。
悲しい確認のため、ローチェストに目を向ける。
じいちゃんの魔法のランプは、昨日までよりもっと錆びつき、古びてしまったようだった。
ランプの精が、消えてしまったせいだろうか。
胸がキュッと痛んだ。
けれどもう、涙は出なかった。
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