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まずは裏山の教会に走った。彼と会った場所だからだ。
しかし教会に彼の姿はなく、幼稚園側の建物の中にいた神父様に訊くと、ちょうど帰ってしまったところだった。
俺が困っていると、神父様が明仁くんの住所を教えてくれた。明仁くんの自宅は、じいちゃんの家から車で五分ほど、歩くと三十分はかかる場所にあった。明仁くんはいつも、自転車でここまで来ていたらしい。
俺は少し迷ってから、じいちゃん家に自転車を取りに戻ることはせず、教会からそのまま走って明仁くんの家に向かった。神父様が言うには、明仁くんは一度家に帰ったらすぐ、病院に出かけるらしかった。
明仁くんは夏休みになってから毎日、おばあさんの代わりに教会でお祈りし、それから入院するおばあさんを見舞っているらしい。
俺はつくづく、自分の最低最悪な行動を呪った。
だが、落ち込んでいる暇はなかった。明仁くんと行き違いにならないよう、一刻も早く彼に会わなければならない。
もし万が一、俺がひどいことをしたままおばあさんが亡くなってしまったら、俺は俺を許せないだろうと思って、怖かった。
そして徒歩三十分の道を、真夏の真昼に全力疾走した。途中でぶっ倒れそうになったが、根性で乗り切り、明仁くんの家まで走って走りまくった。
明仁くんの家は、駅やいくつかの商店もある町の中心地にあった。町一番と言われる豪邸は、北山のじいちゃんの家からも見える、大きな平屋の日本家屋だった。
じいちゃんの家とは趣が異なる、いかにも旧家のお屋敷という、どっしりとした豪邸だ。大きな日本家屋の、これまた立派な屋根のある門が見えてきた。
じいちゃん家が『ホー○テッドマンション』なら、こちらは『番町皿屋敷』か?
こんな大きな門は、見たことがなかった。まるで時代劇に出てくる武家屋敷のようだ。俺は、門の前に着いても、どこから入ったらよいのかわからず躊躇した。
俺が不審者のように、明仁くんの家の前でウロウロしていると、大きな門扉の横の、小さな木戸が開いた。
通用門――普段の出入りはそこからするのだと、後で知った――から現れたのは、俺が探していた明仁くんだった。
明仁くんは俺を見つけると、大きな目を丸くした。
「明仁くん!」
俺は彼の元へ駆けた。もしかしたら無視されるかもしれないと思ったが、彼はそんな小物の男じゃなかった。
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