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数日後、静かだったじいちゃん家は、日常の騒々しさを取り戻した。
「……京都も暑かったけど、うちも暑いね~」
景子叔母が、予定より数日早く帰ってきたのだ。
「こんなに暑いのに、体は大丈夫なの? もし子供に何かあったら、母ちゃんがまたぶちギレるよ」
じいちゃん家の玄関で、帰ってきたばかりの景子叔母から大きなボストンバッグと、お土産の八橋の入った紙袋を受け取る。
「しばらくは、家で大人しくしてるわよぅ。今より姉さん怒らせたら、姉さんのほうが倒れそうだし」
景子叔母はまったく悪びれず、ペロリと舌を見せた。母には申し訳ないが、怒りまくる母を想像し、景子叔母と顔を見合わせ、笑ってしまった。
景子叔母はリビングに行くとすぐ、ソファに座り込んだ。大丈夫と言いつつ、疲れてはいるのかもしれない。
この暑い中、遠く京都まで、ほとんどトンボ帰りの強行日程だったのだから、無理もない。本来ならゆっくりしてきてもよいのに、俺のことがあるから大急ぎで帰ってきてくれたのだ。
景子叔母は暑い暑いと言いながら、テーブルの上に置いた、俺がさっきまで使っていた団扇で豪快に扇いでいる。
俺はキッチンに行き、冷えた麦茶のボトルを取り出し、景子叔母に持って行った。
「あら、随分気が利くじゃない?」
景子叔母は珍しいものを見るように、俺を振り仰いだ。
「てゆうか光也、やっぱりあたしがいない間に、なにかあったんじゃない?」
景子叔母のグラスに麦茶を注いでいた手が、止まる。
「……なんで?」
「だって、数日会わなかっただけなのに、大人っぽくなったって言うか……。男前が上がってるんだもん」
景子叔母は、少女のように笑った。
ジンとのことを見透かされたようで、俺はどうにも居心地が悪くなった。
「なんもねぇし!」
「ほんとう~?」
顔を覗かれ、思わず慌てて逸らす。
やっぱり俺は、景子叔母には敵わない。
そして、いつでも明るい笑顔を見せてくれる景子叔母が、大好きだった。
「なぁ、ケコちゃん」
「なぁに?」
「俺、明日にでも家に帰るよ」
心から信頼する叔母に、偽りのない今の心境をそれだけ言って伝える。
景子叔母は一瞬驚いたような顔をしたが、すぐに、そっか、と俺の気持ちを察して頷いてくれた。
うん、とだけしか俺も答えず、しかし俺たちにはそれだけで十分だった。
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