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母さんに顔を見せて安心させたい、なんて、まだ口にするには気恥ずかしい年頃だ。
景子叔母は、それから話題を変えてくれた。 婚約者の話、その彼の家族の話、そして京都旅行の話や今後の予定について。
しばらく二人で話していると、玄関チャイムが鳴った。やたら広く、客室も多いじいちゃんの家だが、来客は珍しい。
「宅配便かな?」
景子叔母が応対に行き、あら! と嬉しそうな声がした。
戻ってきた景子叔母は、目を輝かせていた。
「ちょっと光也、あんたいつ明仁くんと友達になったのよ」
「え?」
驚いた俺は、ソファから腰を浮かせた。
「玄関に、明仁くんが来てるわよ」
急いで玄関に駆けつけると、玄関に明仁くんが立っていた。
「こんにちは」
明仁くんは、晴れやかな笑顔だった。
「光也~、上がってもらいなよぉ」
リビングから、景子叔母が声をかけてきた。
しかし俺は、明仁君くん二人で話がしたくて、「出かけてくる!」と景子叔母に返し、明仁くんの希望も聞かず、彼を外に連れ出した。
「ちょっと~!」
景子叔母の声がしたが、それも無視して明仁くんと庭に出て、そのまま門を潜り抜けた。
「……あの、景子先生は?」
門の外に出ると、明仁くんが丸い目で俺に問いかけてきた。
「いいのいいの。ケコちゃ……、叔母さんがいるとゆっくり話せないから、暑いけど、ちょっと歩かない?」
俺の勝手な申し出に、明仁くんは嬉しそうに笑ってくれた。
ぱあっと花が咲いたようだった。
――ん?
花が咲いたことに疑問を抱きつつ、俺は明仁くんと連れ立って歩き出した。
どこを目指すというのではなかった。ただブラブラと、いくらか日陰の多い方に歩いて行った。
なぜだか彼とは、それで間が持ったのだ。
「この前は、わざわざありがとうございました。家まで十字架届けてもらって」
明るい明仁くんに、俺は嬉しい知らせを期待する。
「やっぱり、ご利益あった?」
ご利益――というのはおかしいか?
「はい。お陰さまでおばあちゃん、一昨日意識が戻って、まだ安心はできないけど、危ない状態は脱しました」
明仁くんは足を止め、肩に下げた上質そうなキャメルのショルダーバッグから、あの十字架を取り出した。
「おばあちゃん、これを見てすっごく喜んでました。お兄さんの……仁さんのものに間違いないって。とても懐かしがってました」
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