マジック03 夏の奇跡

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「そう、良かった」  久しぶりに、心から良かったと思える、嬉しい出来事だった。  俺はホッと胸を撫で下ろした。 「おばあちゃんが回復したので、十字架お返ししますね。本当にありがとうございました。おばあちゃんからも、お礼を伝えてくれって」  明仁くんは、十字架を大事そうに差し出した。  俺はすぐには受け取らず、十字架をじっと見つめた。 「光也さん?」 「それ……、明仁くんのおばあさんに、返してもらえないかな?」 「え?」  その十字架は、じいちゃんの大切な形見だ。  じいちゃんの初恋の、大切な思い出。  しかしそれはもう、我が家にはいらない気がした。  これは決して、昨日までのつまらない嫉妬心から思ったことではない。    仁さんが亡くなり、じいちゃんも亡くなり、ジンさえ逝ってしまった今、悲しい恋の思い出は、本当に持つべき人の元へ帰るべきじゃないだろうか。  仁さんの妹である、明仁くんのおばあさんの元へ。 「でもこれは、おじい様の大切な形見でしょう?」 「う~ん……そうだけど、元々は仁さんの形見なわけだし、本当は仁さんの家族が持ってる方が、いいんじゃないかなって」 「ダメです! 祖母は光雄おじい様が、仁さんの形見をずっと大切にしてくれていたことを、喜んでるんです! だから光也さんに返さないと、僕が怒られます!」  予想以上に、明仁くんは抵抗した。  でも、と俺が言えば、でも! と明仁くんも頑として譲らなかった。  可愛らしい顔に反して、意外と頑固らしい。と彼の性格の一端を知り、俺は笑った。 「なんですか?!」  突然笑った俺に、馬鹿にされたと思ったのか、明仁くんは可愛い唇を尖らせた。  俺は根負けした。 「わかった。じゃあそれ、明仁くんが持っててよ」  明仁くんは仁さんのれっきとした親族だし、なにより彼なら、俺より十字架を大事にしてくれるだろうと思った。  俺は自然に、彼に十字架を託していた。  だが、明仁くんの表情を見て――俺は不自然になった。  明仁君の顔は、暑さのせいかもしれないが――真っ赤だった。  ――あれ? 「いいんですか? おじい様の大切な物なのに?」  明仁くんは育ちが良いから、はしゃぎたいのを懸命に抑えているような感じがした。  まさか――ね? 「う、うん……。うちでしまい込まれてるより、明仁くんに大切にしてもらった方が……」 「絶対、大切にします!」
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