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とっても嬉しそうに言われ、俺も落ち着きを失った。
まさかまさか――。
明仁くんは大切そうに十字架を握りしめ、恥ずかしそうに、けれど嬉しそうに、口の端が微笑んでいる。
いやいやいやいや――。
自惚れちゃぁいけない。
と、俺は俺に言い聞かせる。
も~~しかして、明仁くんって俺のこと?
などとは、思い違いも甚だしい。
俺は必死で、自分を落ち着けようとした。
しかしその努力は、明仁くんに打ち破られた。
「光也さん、いつまでここにいるんですか?」
「へっ?!」
「あの、あの……もし良かったら、どっか遊びに行きません? 大して面白いところもないけど、え、映画とか……」
明仁くんは緊張なのか少し震え――まるで告白のようだった。
十字架を握った両手を顎の下で組み、両目はぎゅっとつぶられ――。
どうやら、俺の勘違いではないらしい?
俺はしばらく逡巡した。
俺もおそらく、明仁くんと同じぐらいドキドキしていた。明仁くんを可愛いと思ったから、迷った。
俺は、じいちゃんと同じことをしようとしているのか――と怖くなった。
俺の返事を待ち、緊張に押し潰れそうになっている明仁くんを、もう一度ちゃんと見てみる。
ジンにそっくりな顔。同じ声。
それなのに――。
「夏休みいっぱい、いるよ」
今さっき、景子叔母に帰ると言ったばかりなのに、あっさり撤回する。
パッと顔を上げた明仁くんに、俺はできる限りの格好いい顔を見せた――つもりだった。
「どっか連れてってよ」
ちゃんと格好良く言えていたかは、わからない。ちょっと噛んでしまった気もする。
それでも明仁くんは、真夏の太陽より眩しい笑顔を見せてくれた。
俺を心配している母に、心の中で詫びる。
ごめん母ちゃん。俺――年頃だからさ。
俺は明仁くんに携帯番号を教え、明仁くんはまだポケベルしか持っていなかったので、ベル番を聞いた。そして早速明日、二つ隣の駅まで買い物に出かける約束をした。
明仁くんと初めてのデートの約束に、俺は舞い上がった。
明仁くんも楽しそうだった。
だから俺は、確信した。
俺は明仁くんを、ジンの代わりとしてなんか見ていない、と。
「楽しみですね!」
明仁くんの笑顔に、俺も大きく頷く。
とびきり明るい明仁くんの笑顔は、誰にも似てなんかいない。
新しい恋の予感に、胸が高鳴る。
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