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日記を書くにあたって、僕はある制約を設けた。素直に日記を書いていても飽きてしまうだろうから、この日記は三年後の自分から送られてきていることにしたのだ。その設定とは、がんを克服した三年後の自分が、胃がんに苦しんでいる今現在の僕に対して励ましの念を込めるという内容だ。未来の僕が、三年前の自分の生活を振り返り、日記を綴るのである。
◇
十二月二十日。
今、気象庁のホームページにアクセスしている。気象庁によると、三年前のこの日は、朝から曇り空が続いていたはずだ。気温が低く、夕方ごろにみぞれが降った。
この頃の僕は何かと落ち込んでいたものだ。そろそろTS-1の副作用が出る頃だろう。身体がだるく、重苦しい日々時間を送っているに違いない。
スキルス胃がんの辛いところは、根治の見込みのない病であるのに、抗がん剤に耐え続けなければならない点だ。五年後生存率は5パーセントを切る厄介ながんである。しかし、この日記を見てもらえば分かるように、私はまだ生存している。これも、あの辛い化学療法を乗り越えてからだ。腫瘍マーカーの値が下がっていただろう? 腫瘍マーカーの低下はお前にとって朗報である。今の時点では手術できないほどに、がんは転移しているけれども、腫瘍が小さくなれば手術の可能性が見えてくるのだ。期待していて欲しい。望みを捨てるな。必ず未来は訪れるから。少し遊びに出かけるといい。これからは、体が徐々に弱っていくだろうから、身体が言うことを聞くうちに、遊びに行くとよい。
◇
書いているうちに虚しくなってしまった。こんなことに時間をつぶしていて良いのだろうか? 僕は自棄になっていた。その夜は何も食べずに寝た。
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