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日頃の不摂生が祟ったのか、それともストレスのためなのか、ここ一週間ほど、しくしくと胃が痛む日が続いていた。食事が困難になるほどの痛みではない。市販の胃薬を飲めば痛みも引いたものだ。ただ、油ものを食べると胸やけがするようになって、最近は油ものを避けるようになっていた。
痛みが二週間ほど続いた。しだいに胃薬の効果も期待できなくなり、僕は病院に行くことにした。が、師走の忙しい時期である。なかなか仕事を休んで病院に行くような時間的余裕はなかった。
そんな中、近所のクリニックを予約したのは、胃の痛みが現れてから三週間がたったころである。山積みの仕事を同僚に手伝ってもらい、何とか時間をやりくりして病院に行った。この頃になると、一日中、みぞおちの辺りに痛みが走るようになっており、食事をとるのも苦痛になっていた。
予約していた内科のクリニックに入る。いろいろと問診票に記入して、待ち合い席に腰掛けた。日頃病院とは縁遠い生活をしていたから、このクリニックを利用するのは初めてのことである。受付で問診票を渡して、しばらく待った。やがて名前を呼ばれて、僕は診察室に入った。
診察室には、四十代くらいの頭の毛の薄い男が革張りの黒い椅子に腰かけていた。首からは聴診器を下げて、黒ぶちの眼鏡をかけている。椅子に腰掛ける彼は、指まで太くてたくましい、小太りの医師であった。
「おそらく、急性の胃炎でしょうな。ストレスが原因でしょう」
医師の見立てはこうであった。
「しかし、不安があるのなら、詳しく検査をしておいた方がいいですよ」
小太りの医師はそう言って紹介状を書いてくれた。
こうまでされて、検査を受けないわけにもいかず、僕は医師の言う通りに従うことにした。診察が終わると、早速上司に電話をかけたものだ。電話ではさんざん厭味を言われたけれど、僕は明日の朝、県立病院で胃の検査を受けることとなった。
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