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県立病院は、この町の基幹病院となっているだけあって、朝からとても混み合っていた。
僕は第一内科の前にある長椅子に腰掛けて、診察の順番を待っていた。するとすぐさま僕の名前が呼ばれて、事務員の女性が僕の腰掛ける長椅子に問診票を持って現れた。彼女は安物の黒ボールペンと黄色いプラスチックのボードを渡して、問診票の該当項目にチェックを入れるよう指示した。
問診票は、氏名、年齢に加えて、アレルギーの有無や、今までにバリウム検査をしたことがあるか、その際に何か副作用があったか、などを簡単に問うものであった。
僕は若干、二十八歳でありながら、会社の健康診断でバリウム検査をしたことがある。その際は異常がなかった。
一般的にバリウム検査は、三十五歳を過ぎてから実施している企業が多いと聞く。しかし、僕の務める不動産会社は、二十五歳からバリウム検査を受ける取り決めになっていた。上司によると、この業界は常にストレスに晒される業種であるから、毎年胃腸の弱るやつが多く出てきて困るのだそうだ。過去に何人か胃がんを患い、若くして死んでしまったらしい。そのため、会社は神経質になって若くからバリウム検査をしていた。
問診票に記入を終えると、事務員にボードを返した。その際に、紹介状も一緒に手渡した。
診察まで随分と待った。待つ間、目を瞑る。しかし、胃の痛みが治まることはない。ばかりか、しくしくとした鈍い痛みは時を追うごとに増していた。
予約した時刻から一時間ほど待った。僕はくたびれていた。前日から何も食べず、何も飲んでいないのである。耐えかねた僕は目の前をファイルを抱えて通り過ぎて行く看護婦にあとどれくらい待つのか訊ねようとした。しかし皮肉なことに、その直後、別の事務員から僕の名前が呼ばれた。
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