1人が本棚に入れています
本棚に追加
胃の痛みを抱えながら診察室に入る。診察室にはまだ三十代くらいの、肌の白い若い医師が座っていた。
若い医師は、机の上に広げた紹介状に目を通しながら、二三簡単な質問をした。食後に胃が痛むのか? それとも空腹時に痛むのか? 症状が出てから何日ほど経っているのか? と言った質問である。僕はそれらの質問に丁寧に答えて、医師の顔色を伺っていた。バリウム検査と聞いたから、検査の苦痛を覚悟していたのである。僕にとってバリウム検査は不快なものであり、出来ることならば避けたい対象であった。
ただし、この密やかな願望は早々に砕かれてしまった。診察が終わると、医師は脇に控えた看護婦に書類を渡して電話をかけ始めた。電話の相手は放射線技師であるようで、バリウム検査の予約を取っているらしかった。
バリウムの検査は思ったほど時間がかからなかった。過去にバリウム検査を受けた際は、発泡剤を飲むのに苦労したものだが、今回はそのようなことはなかった。緑色の検査着に着替えて、イチゴ味のバリウムを飲んだ。その後すぐさま台に寝かされる。放射線技師の指示に従って仰向けやら、うつ伏せの状態に体勢を変えて何枚かX線写真を撮った。 検査結果は後日、来院した際に言うらしい。結局その日は胃痛の原因は解らず終いであった。僕は制酸剤を処方されて病院を後にした。
三日後、携帯電話に病院から留守電が入っていた。内容は、「検査結果についてお伝えしたいことがあります。近く来院してください」とのことである。
はて、検査結果が悪かったのだろうか、と、病院へ向かう最中、僕は不安だった。一週間後の予定で検査結果を聞きに行く予定である。よほど悪い結果でなければ、わざわざ病院から電話が入ることなどないだろう。
僕は朝一番に病院に向かった。
向かった病院では、早速、診察室に通されて追加の検査を受けるよう指示された。担当医は、先日受けたバリウム検査の結果、胃壁が厚くなっている。と言い、胃がんの疑いがあるから、詳しく調べる必要がある、と言う。
医師は胃がんの疑いがあると、はっきり言った。がんと言う言葉を避けて、もっと遠まわしにがんの疑いを告げるとも思われたが、そんなそぶりは一切なかった。
最初のコメントを投稿しよう!