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どんな診察結果を言われても冷静でいよう。僕は覚悟していたつもりだ。このところずっと痛みが引かなかったので、ひょっとしたら胃がんかもしれない、との思いがあった。
けれども、医師の口から胃がんという言葉が出て、僕は身を固くした。ここへ来る時も、僕はまだ二十八だ。きっと胃潰瘍かなにかの酷くなったものに違いない、と自らに言い聞かせたものだ。が、それがあっさりと否定されてしまったのである。診察室の丸い回転椅子に腰掛ける僕は、努めて冷静を装っていたけれど、内心はとても動揺していた。
追加の検査として、僕はまず胃カメラを飲むことになった。左側面が下になるようにベットに寝かされ、ゼリー状の麻酔が施される。その後、口当てを噛まされて、胃カメラが挿入される。胃カメラが食道を越えたあたりで一度えずいた。だが、腕のいい医師であるらしく、その後はさほど苦痛ではなかった。
胃カメラを飲んだ後は採血をし、それらの検査結果が判明するまで、僕はしばらく待合室でまった。そこで何気なく手を見ると、寒くもないのに指が震えていた。震えを止めようと意識しても、とてもじゃないが止められそうになかった。
検査結果は、カンファレスルームという、三四脚の椅子が置かれた小さな会議室で行われた。そこでは先日撮影したバリウム検査時のレントゲン写真と、今回行った胃カメラの画像、血液検査の結果等を踏まえて説明を受けた。
「この白く、厚くなっている部分がわかりますか?」医師は僕の胃のレントゲン写真を指差しながら言う。「これはですね……、胃がんです。大きな腫瘍が胃の外側を取り囲むように広がっています」
医師は淡々と話した。
改めてがんと宣告されると動揺が激しかった。心臓がバクバクと波打って、「そうですか、胃がんですか」と、力なく答える他には何も言えなかった。
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