乱調

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 僕はまず、母を先に実家に帰すことにした。実家では父が待っている。正直言って自分の身の回りの整理は自分で済ませておきたい気持ちがあったし、少し一人の時間が欲しかった。それに最近、妙に優しくなった母と一緒にいると、僕の方がいたたまれなかなった。親より先に死んでしまう、そう思うと辛かった。  部屋には、母に見せたくないものがいろいろとある。当然、僕も二十八の男であるから、年齢にふさわしい性欲をもっていた。健全な欲望である。PCの中にはその健全な欲求から収集した、ごくごく普通のポルノ画像がある。一部動画もある。中には別れた彼女と一緒に撮影した卑猥な映像も残っている。これらのデータを死ぬまでに処分しておかなければならない。  久しぶりに私用のPCを立ち上げる。この私用のノートPCには、例の卑猥な画像の他にも、色々と思い出の詰まった写真や、学生の頃から書きためてきた日記などがある。これらを元気なうちに整理してしまおう。僕は部屋の片付けに勤しんだ。  だが、気がつけば僕は、昔書いた日記やら小説を読み返していた。日記を読み返してみる。その中に学生の頃に書いた小説のファイルがある。  僕は、そのうちの一つの小説のタイトルが気になってしまって、そのファイルを開いた。僕は身辺整理もそっちのけで、昔書いた小説を読んだ。
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