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わざわざ予知メールで死を思い留まらせるなんて。
『私はあなたが不幸に嘆く姿を見ていました。それでもあなたは堅実に生き、困っている人を見捨てなかった。どうしてあなたに幸福が訪れないのか。なぜ私達はあなたを助けられないのか。運命の悪戯としか思えないです。だからせめて、過去のあなたが死ぬことだけは……――』
次々と舞い込む、知らない未来の人達からのメール。葉山が歩いたかもしれない世界線で暮らす人達からのメール。
「どうして」
自分は未来で様々な人から愛されているらしい。
しかし、神様とやらからは愛されなかったらしい。
未来の葉山は幸福を振りまくだけで自分は幸福になれない。
理不尽で非情な未来。
『どうか、生きてください』
『死んでしまったらそこでおしまいなんです』
『可能性を諦めるな』
『n回失敗してもn+1回目には成功するかもしれない。葉山の不幸は数学的帰納法ではまだ証明されていないだろう』
『私達に幸せをくれたあなたは絶対に幸せになれるはずなんです』
未来の自分から自殺をするよう促され、未来の他人から生きるよう諭される。
『自分だけ幸せを貰ってあなたを幸せにできない私は身勝手なのかもしれない。だからせめて、死んで終わりにすることだけは思い留まらせたいと思ってこの予知メールを書きました』
聞いたこともない人達からの激励のメール。
その数はぐんぐんと膨れ上がり、もう全てを読むことさえもままならない。
1年後、2年後、10年後、15年後――様々な未来から葉山に向けて予知メールが送られてくる。
ふいに涙があふれた。
「この予知メールを全部読み終えるまでは頑張ろう……」
どこの誰かも知らぬ者の言の葉が葉山を支えたのだった。
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