未来の俺からもう逝けっていわれたんだけど

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 20XX年、日本――。  ついに現実がアインシュタインの特殊相対性理論に追い付いた。光速を越える粒子の存在が確立され、人類は過去への情報伝達が可能になった。  そしてついに、その至高の技術が一般市民へと一部還元される運びとなった。  すなわち、過去へメールを送ることができるようになったのだ。  特殊な情報デバイス“タキオン”。これを使えば誰でも過去にメールを送ることができる。今年はタキオンがサービス開始される記念すべき元年。抽選で選ばれたほんの一握りの人がテスターとしてタキオンを使うことができるようになった。  これはいわば、新時代の幕開けの年だ。そして、それはかつてヨーロッパで起きた産業革命よりもずっと人類の生活に絶大な影響を与えたイノベーションであった。  タキオンが受信するメールは通称“予知メール”と呼ばれる。  なぜ“予知”などと呼ばれているのか?  過去にメールを送ることができる。それはすなわち、未来からメールが来ることに他ならないからだ。 「さっきさ、1年後の私からメールが来たんだよね」  都心を走るリニアモーターカーの中で女子高生達が会話に花を咲かせている。 「明日の登校時にいつものリニアよりも1本遅いリニアに乗ったら、私、田島先輩と付き合えるんだって! どうも、ばったりリニアの中で先輩と出くわすらしいの!」 「マジ?! やったじゃん! 予知メール様々だね」  タキオンの液晶画面に映るメール本文には絵文字だらけのキラキラとした文章が綴られていた。恐らく未来の自分がハイテンションに打った文面なのだろう。  どうやらこのふたりはタキオンを手にすることのできた非常に幸福な者達らしい。タキオンは老若男女、幅広い世代の人間をテスターとして選定している。彼女達はいわば学生のテスターとして選ばれたのだろう。
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