未来の俺からもう逝けっていわれたんだけど

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 だが、彼の表情は暗い。  ふいにタキオンが震え、予知メールが届いたことを葉山に報せる。葉山は半ば縋るようにして送り主を確認した。 (ko-hayama⑥tachyon.ne.jpってことは6年後の俺からのメールか……)  本来ならば@(アットマーク)の入る部分に数字が入っている。この数字は何年後からメールが送られたのかを示している。⑥は6年後という意味だ。  内容を見てみる。 『昨日までのメールの助言に従って公務員試験を受けた。試験には受かって公務員になれたが、有り得ないミスを連発。タキオンですら回避できないほどの不運が立て続けに起き、失職。公務員はダメだ。そして、恐らくもう分かっていると思うが……』  そこで葉山はタキオンの画面から目を逸らした。  今月に入って葉山のタキオンには実に数千通を超える予知メールが届いていた。そのどれもが似た内容だった。最初の内容はこうだ。 『内定先の○×商事はダメだ。俺には合っていない。タキオンですら回避不能な不幸の連続で失職。最悪な気分だ。○×商事には行くな』  立て続けに、○×商事を蹴って別の企業に就職したらしい未来の自分の予知メールが届いた。 『もうひとつの内定先の△□物産もダメだ。タキオンですら回避できないミスであえなくクビ。いいことなんてなかった。内定先は蹴ってフリーターをやったらどうだ?』 『フリーターはやめろ。人生で一番の不幸が降りかかるぞ。やめておけ』 『教員はダメだ。濡れ衣着せられて懲戒免職。ストレスで胃に穴が開いた』 『無職で生活できるほど甘くなかったよ。何としてでも職を見付けろ、昔の俺!』  次々とタキオンに舞い込むネガティブな内容の予知メールの数々。ひとつもポジティブな内容なものはない。全てが今の葉山へ忠告を与える内容だ。  未来の葉山は常に不幸のどん底にいるようだった。  歴史は繰り返すという。たとえヒトラーが暗殺されても、別の誰かがファシズムに基づいた迫害を行っただろうなどというSF的見解もある。  これが世の理ならば、きっと葉山という人物の不幸はタキオンで一時的に回避したとしても決して覆ることのない決定事項ということなのだろう。  予知メール様々。とてもではないがそうは思えない。厳しい抽選を勝ち抜いてタキオンを手にしたところまでは良かったが、結局幸福だったのはそれまでだったようだ。
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