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たった今来たメールの文末にはこう書かれていた。
『20XX年、葉山功が死ぬことが最善だ』
それからぱたりと予知メールは途絶えた。
自分が自分の死を勧める行為は他殺なのか。それとも自殺なのか。
生きていれば、可能性は無限にあるといわれている。葉山はその無限の可能性を幾つもいくつも試したのだろう。試行回数はタキオンに届いた数千を超えるメールが如実に示している。
葉山の幸せを願ったメール全てが、葉山にとって不幸の証拠となった。
その数千通のデータが葉山に自身への殺意を抱かせる。
(死後の自分から予知メールが届くことはない。何といっても死んだ後なのだから)
試していない可能性は、今、ここで死ぬことのみ。
葉山の足は、知らず知らずのうちに東京郊外に向いていた。
リニアから降りたときには既に日がとっぷりと暮れていた。
冷たい外気に身を震わせる。
息が白い。
予知メールのことばかり気にしていたため、季節の移ろいにも気付けなかった。
駅は閑散としていた。帰宅途中のサラリーマンがポツポツといるだけだ。
電球が切れかかって明滅を繰り返す街灯の遥か先に小さな山がそびえているのが見えた。自殺の名所として有名な山だ。
黒々とした影を纏ったその山はまるで冥界への入り口であるかのように闇の中に佇んでいた。
葉山を死に誘っているかのように。
葉山は導かれるようにそちらに向かって歩みを進めた。
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