0人が本棚に入れています
本棚に追加
2
「廃校、高台、真夜中、みなみのうお座」
手のひらに男が残していった、
赤い色の畳まれた紙片を見下ろす。
慎重に開いて、
小声で読み上げた。
黄昏時、
職業難民の就職活動の場となっている往来の路上は、
目先の仕事を求める人間ばかりだ。
克深に接触した男は、
職の仲介人であった。
人材を探して闊歩する彼らも雇われ人であり、
有能な人材の依頼先への送り込みに成功すると、
売人の元締めから給金が支払われる。
仕事は十把一絡げ。
往来は、
定職を持たない職業難民にとって、
手っ取り早い職業紹介所である。
歩合制の数打ちゃ当たる方式だが、
仲介人の眼鏡に適えば、
職にありつけることができた。
求人札は直接、
仲介人に渡される。
形も方法も様々なため、
託された札に気づかなければ、
それまでだ。
試されているような行為だが、
気づいて、
本人に働く意志があるのなら幾らでも稼げる。
ただし、
正式な認可の下りている仕事は滅多になかった。
仕事先の住所や仕事内容、
給金の目安などが求人札には書かれている。
大抵は、
そちらに出向いて面接を行い、
雇われる。
本人に働く意志がないのならば、
出向く必要はない。
職業難民の自由意思によって、
界隈は成り立っており、
強制力はないのだ。
克深は、
折り癖のついた赤い紙片をもう一度見下ろした。
時折、
暗号のような求人札が存在する。
解読しなければ、
目当ての職場に辿り着くことさえできないのだが、
給金は高額の場合が多い。
比例して、
非合法の度合いも恐らく高い。
すでに赤い紙片の内容は解けてしまっていた。
「わかっちゃったものは、仕方ないし」
鼻から長くため息をついて、
元々折ってあった形に札を戻す。
求人札にあった指定の時間帯迄には、
充分に余裕がある。
赤い折り紙の札を懐に納めると、
彼女は別の職場へと足を向けた。
最初のコメントを投稿しよう!