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巨大な天象儀は、 かつて夜空で輝いていた星々を円蓋に投影している。 録音ではなく、 その日その場所その時間、 彼女は原稿を読み上げていた。 脇では雇い主の男が細かい機械を神経質そうに操作している。 機械技師は彼、 一人きりのようだった。 一週間の内に数日のみ数回しか上映はされず、 来客は数えるほどしか、 やって来ない。 今更、 星空を見上げようという物好きな者は滅多にいないのだろうか。 『……秋の夜空に見られる星を紹介しましょう。秋の星座は地味な印象がありますが、その中では、くじら座、ペガスス座、みなみのうお座が探しやすいでしょう。南の空に現れるのが、くじら座。星座の胴体部分にある真ん中の赤い星、ミラを最初に見つけると良いでしょう。ペガスス座は秋の四辺形、翔かける馬の胴体部分です。この辺の西側を下部に真っ直ぐ下ろしてみると、みなみのうお座があります。逆さまになった魚の口部分に見えるのが、フォーマルハウト。二等級のミラやその他の星が四等級以下なのに比べて、唯一、一等星の星なのです。その為、秋星、秋の一つ星などと呼ばれています。ぽつんと一個だけ輝いていて目立ちますが、孤独な星とも言えるでしょうか……』 外に出て夜空を見上げると、 さもそこに当たり前に星が見えるような語り口。 原稿も男が書いている。 職員の姿は見当たらず、 彼だけで全ての運営をとり仕切っているようだった。 私的な事情を問うことは、 最初の契約で禁止事項とされている。 まるで彼自身がフォーマルハウトのような存在だった。
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