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5
巨大な天象儀は、
かつて夜空で輝いていた星々を円蓋に投影している。
録音ではなく、
その日その場所その時間、
彼女は原稿を読み上げていた。
脇では雇い主の男が細かい機械を神経質そうに操作している。
機械技師は彼、
一人きりのようだった。
一週間の内に数日のみ数回しか上映はされず、
来客は数えるほどしか、
やって来ない。
今更、
星空を見上げようという物好きな者は滅多にいないのだろうか。
『……秋の夜空に見られる星を紹介しましょう。秋の星座は地味な印象がありますが、その中では、くじら座、ペガスス座、みなみのうお座が探しやすいでしょう。南の空に現れるのが、くじら座。星座の胴体部分にある真ん中の赤い星、ミラを最初に見つけると良いでしょう。ペガスス座は秋の四辺形、翔かける馬の胴体部分です。この辺の西側を下部に真っ直ぐ下ろしてみると、みなみのうお座があります。逆さまになった魚の口部分に見えるのが、フォーマルハウト。二等級のミラやその他の星が四等級以下なのに比べて、唯一、一等星の星なのです。その為、秋星、秋の一つ星などと呼ばれています。ぽつんと一個だけ輝いていて目立ちますが、孤独な星とも言えるでしょうか……』
外に出て夜空を見上げると、
さもそこに当たり前に星が見えるような語り口。
原稿も男が書いている。
職員の姿は見当たらず、
彼だけで全ての運営をとり仕切っているようだった。
私的な事情を問うことは、
最初の契約で禁止事項とされている。
まるで彼自身がフォーマルハウトのような存在だった。
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