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6
克深は全ての上映が終了してから、
帰り支度を整える。
天象儀の建物を出ると、
敷地は出て行かずに、
離れへと向かった。
実はもう一つの仕事が契約内容に存在していた。
一際、
蔦の葉と蔓が絡まった煉瓦の洋館の一室に、
少女が眠っている。
天蓋のついた寝台に紗の布が両脇から下ろされているので、
普段は中を窺うことはできない。
克深の仕事の間だけ、
布が上げられて少女の顔を見ることができた。
林檎のようにとは言えないが、
うっすらと染まった頬と、
安らかな寝息で、
彼女が眠っているだけだということがわかる。
部屋の電気を消すと、
少女の枕元にある、
黒い多角形の物体に電源を入れる。
暗闇の中、
寝台の広い天井に星空が広がった。
天象儀のように回転はしないが、
確かに秋の夜空の星座が投影されている。
その日読んだ星空原稿を彼女に読み聞かせるのが、
仕事であった。
克深が知る限り、
少女が一度でも目を覚ましたことはない。
事情を問うことはできないのだ。
今夜の仕事を終えて、
帰途に着こうとした直前、
片耳だけの紅い鉱石がなくなっていることに気づいた。
離れか、
天象儀のある部屋か、
どこで落としたのか。
位置が近い天象儀の建物に足を向けると、
窓辺に夜空を見上げる男の姿が見えた。
珍しく黒縁の眼鏡を外しており、
どうしてか彼の瞳の色が鮮明に認識できた。
虹彩が判別できない程、
真っ黒な瞳であった。
いや、
色合いは海底の闇、
紺碧のような。
気配に気づいたのか、
男の瞳が克深へと向けられて、
思わず、
身を翻していた。
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