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入り組んだ路地を辿る帰路を巻き戻して、 天象儀の建物へと舞い戻ったのは数刻の後。 もう誰もいないと思い込んで向けた視線の先には、 紺碧の闇があった。 窓が開かれて、 差し出されたものが示すのは、 彼女がなくした鉱石だった。 克深は紅い石に夢遊病者のように手を伸ばす。 躊躇した指先が触れる瀬戸際、 思わぬ強い力で建物内に引き込まれていた。 「聞いてもいいですか。どうして、彼女は」 許可を待たず、 問おうとしていた。 ここ以外では、 もう機会は訪れないと思ったのだ。 けれども、 紺碧の瞳に意志を絡め取られて、 続けることができない。 「契約違反だ。何なら、君の事情を聞き出そうか」 耳元で聞こえる声に体中が震える。 語るという行為は、 恐れるものの本質を見据えることである。 事情を問うことはできない。 初めから決められていたではないか。 自身が納得し、 自身が忌避することを、 相手にも強要しようとしたのだ。 自己嫌悪と後悔は勿論、 認めたくない感情への恐怖から逃れようともがいていた。 叶わないのならば、 このまま全て塗り潰してくれる闇と交歓してしまえばいい。 目を閉じて、 紺碧の闇に染まって、 一時の至福を手に入れてしまえばいい。 きっと、 紅石だけは染まることなく、 輝き続けるはずだから。
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