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7
入り組んだ路地を辿る帰路を巻き戻して、
天象儀の建物へと舞い戻ったのは数刻の後。
もう誰もいないと思い込んで向けた視線の先には、
紺碧の闇があった。
窓が開かれて、
差し出されたものが示すのは、
彼女がなくした鉱石だった。
克深は紅い石に夢遊病者のように手を伸ばす。
躊躇した指先が触れる瀬戸際、
思わぬ強い力で建物内に引き込まれていた。
「聞いてもいいですか。どうして、彼女は」
許可を待たず、
問おうとしていた。
ここ以外では、
もう機会は訪れないと思ったのだ。
けれども、
紺碧の瞳に意志を絡め取られて、
続けることができない。
「契約違反だ。何なら、君の事情を聞き出そうか」
耳元で聞こえる声に体中が震える。
語るという行為は、
恐れるものの本質を見据えることである。
事情を問うことはできない。
初めから決められていたではないか。
自身が納得し、
自身が忌避することを、
相手にも強要しようとしたのだ。
自己嫌悪と後悔は勿論、
認めたくない感情への恐怖から逃れようともがいていた。
叶わないのならば、
このまま全て塗り潰してくれる闇と交歓してしまえばいい。
目を閉じて、
紺碧の闇に染まって、
一時の至福を手に入れてしまえばいい。
きっと、
紅石だけは染まることなく、
輝き続けるはずだから。
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