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差出人のアドレスは3年後の日付になっていた。一般人も宇宙旅行にいけるSFな時代だと言えども未来からメールが飛んでくるなんてまだ早くないか? しかし。
美穂はハニワちゃんのストラップが付いたスマホを握りしめ、自宅を飛び出した。未来からのメールなんて馬鹿げてると思う一方で、メールの中身が的を射てるのも事実だった。出張先の土産店で購入したと言っていたぬらりひょんのマグカップは違う階の給湯室にもあるのを同僚が見ていたし、美穂のマンションに来たときの成司のシャツに香水が香ることもあった。
とにかく確かめなければ。今、成司の不適切な行動が判明すれば、間に合う。結婚式は来月なのだ。
会社に到着して会議室へ向かう。エレベーターを待つのももどかしく、階段で4階に上がる。息も苦しくて肺がキリキリと痛くて、それでも美穂は走った。夜のオフィスは照明が落とされ、廊下も暗かったが、その廊下にひとつの部屋から明かりが筋のように伸びていた。第三会議室だ。美穂の足は自然と忍び足になる。机の軋みと濡れそぼつ女のうめき声と男の鼻息が聞こえてきた。近づくにつれ、段々と大きく美穂の耳に届く。
ドアの隙間から漏れた光がウインクした美穂の顔を照らす。その黒い瞳に映ったのは紛れもなく婚約者と総務の女の合体した姿だった。理恵子は机に手を突いて立ち、成司は理恵子の後ろからその腰を両手でつかみ、カチャカチャとバックルを鳴らして腰を振っていた。肘が折れ、理恵子は机の上に突っ伏す。それでも容赦なく成司は攻めた。あんなに熱く攻められたことなんてない。スマホのカメラ機能を呼び出してボタンを押し続ける。連写のシャッター音が耳に触る。立ちバック、あんな体位をしたことはない。理恵子の腰をつかんでいた右手はブラウスの中に侵入していった。理恵子の顔がバネが跳ねるようにひゅんと天井を向いた。
なんなんだ、あの激しい感じ。
美穂の脳内は融点を迎えてドロドロに溶け出し、フツフツと沸いた。沸点に達した。
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