65人が本棚に入れています
本棚に追加
オレは開き直って残りの人生を歩む事にした。残された時間は一緒だったが気が随分と楽になったように思う。
しばらく経って、遼子が言った。
嬉しそうに、自分のおなかにオレの手を当てて、赤ちゃんを授かったと。
オレは驚いた。それは大きな衝撃だった。
最初は戸惑ったものの、遼子はとても喜んでいた。あんなに幸せそうな顔を見たのは初めてだったから、オレも、嬉しかった。
朦朧とする意識の中で、様々な記憶が溢れ出す。
どれも遼子との思い出だ。
近所のコンビニに行った。有名ラーメン屋に並んだ。北国に大雪を見に行った。桜の木の下で寝そべった。富士山を一周した。二人で、ゆく夏を惜しんだ。
幸せを感じた、今この瞬間も、オレは充分幸せな人生を送れた。
そしてオレの妻、遼子は今、分娩室にいる。
願わくは、息子の顔を一目見たかったが、残念ながらそれは叶いそうにない。
現実は変わった、遼子もオレも幸せに過ごせた、だが未来は分からない。それは当り前の事なのだが。
心残りは、やはりある。
最期の時が来た。
とてつもなく眠くなってきて、どうしても抗う事が出来ずに目を閉じかけたその時、メールの着信を知らせるメロディがスマホから鳴り出した。
最後の力を振り絞り、オレはメールを確認した。
驚いた。
それは一年後のオレからの『未来からのメッセージ』だった。
オレは夢でも見ているのだろうか、いや、死ぬ寸前の奇跡か妄想か、どちらでも構わなかった。
最初のコメントを投稿しよう!