65人が本棚に入れています
本棚に追加
オレは泣いた。涙が止まらなかった。
一年前のオレと今のオレの決断を、誰が許すと言ってくれるだろうか。
多分過去のオレが死んだ途端に、今のオレも消えてなくなるだろう。それは構わなかった、もう時間切れ、明日も生きていられるか分からないほどオレの病状は悪化している。でも遼子はどうなるのだろうか。今のオレには未来はおろか、過去すらもう無くなってしまった。
一人ぼっちの病室のベッドで頭をもたげて窓の外を見ると、鮮やかな青空を鳥が飛んでいた。
オレは溜息をついた。
ガラス窓で隔たった外界と病室とでは、あまりにも世界が違う。どちらかが幻想ならばまだ救いがあるのに。
哀れなオレよ。
オレには未来が無い。誰も救いの手を差しのべてくれる者はいない。
だが、一年前の自分よ、お前にはまだオレがいる。
奇妙な感覚だった。オレは一年前のオレを、不思議なことに客観的に見ていた。別人のように感じてしまった。まるで、人助けをするような気持ちが込み上げて、救ってやりたくなってしまった。
そうだ、オレだけがお前を助ける事が出来る。震える指で、ゆっくりとスマホを操作する。
多分これが最後の、未来からのメッセージになるだろう。
オレの方が限界なのだ。もうその時が来てしまったようだ。
『お前にはまだ一年未来がある。あと少し生きろ。遼子と共に精一杯生きろ』
もし何をやっても遼子の想いが変わらないのなら、逆らわずに、受け入れてやる方が良いのかも知れない。そう思ったが、オレの方がもう時間切れだ。
送信ボタンを押した瞬間、過去の映像が脳裏に現れた。
翌日自らの足で自宅に帰りつくと、遼子が待っていてくれた。一睡もしていないのだろう、泣き腫らした目をしていた。
自殺未遂と悟った遼子は、半狂乱に泣きながらオレを叱った。オレがいなくなったら、後を追うとも言った。
オレは遼子に、もう死ぬ気は無い事を伝えて、一緒に精一杯生きると誓ったんだ。
未来を二人で。
最初のコメントを投稿しよう!