第1章

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この負い目はこれまで誰にも言うことなく、心に封印していた過去の傷跡だった。  未来の俺は 「遥を失ってから10年間、ずっと腑抜けになっていた。 やっと立ち直って、せめて遥のような悲劇をなくすよう、 心臓のドナー登録をした。ドナー登録して初めて知った。 俺の心臓は、遥の血液型も抗体反応もぴったり一致していたんだ。 なぜ、早くドナー登録しなかったのか、これまでの人生の百倍も悔やんだよ。 お前なら、やることは分かるよな。手遅れになる前に実行しろ。」 ただ、それだけのメールだった。  俺はメールを受け取った瞬間から実行計画を立てた。 緻密な計算に基づいての計画だった。さて、今日はいよいよ実行の日だ。 原宿に出かけて、遥との待ち合わせ場所で実行しよう。さあ、実行だ。 その時だ。遥からメールが来た。 「新しい恋人ができたの。さよなら。」  崇高な想いで、少なくとも自分ではそう思っていた決心がぐらついてしまった。 「何なのだよ。こんなときに。」 すごすごと、待ち合わせ場所から引き返した。 コーヒー店の前を通り過ぎた。 そのとき、コナコーヒーの香りが鼻先をかすめた。 そしてまた、戻ってきた。  遥への愛は強い。一瞬でも決心がぐらついたことを悔やんだ。 例え、健康になった遥を他の男が支えることになっても。 それは俺にとって望む方向だ。 遥が幸せになればそれで十分だ。 遥の幸せを望んでいるこの気持は、愛しているからこそ、と自分では信じている。 この複雑な気持は自分でも分からない。  計画を実行した。  遥にとっては、残酷な1日だった。 約束の時間から30分たってもまだ現れない俺を待ちわびていた遥の目の前で、 俺が車の前に飛び込んだのだ。 それも、頭部だけに微妙な損傷を与えて脳死状態になるよう、体に防具まで巻いて。 「コウスケー。」  路上に横たわった俺の胸に遥の叫び声がつきささった。 「待ち合わせ場所に来てくれたんだ。でも、新しい恋人と一緒かな。」 救急車の中で、遥の泣き声を聞きながら、意識を失った。  救急車は脳死状態となった俺の体を病院に運んだ。 俺の体と一緒に病院に駆け込んだ遥は、そのまま、心臓移植を受けることになった。  医者は驚いた。 「世界に一人しかいないドナーが目の前で亡くなるなんて。 こんな偶然は神様しか作れない。」  遥は俺のとった行動が全く理解できず、混乱した気持ちのまま、 俺の心臓を胸に抱えて退院した。
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