桐島夏美 ―今―

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―――― ―― 「……おーい。ナツ、ちゃんと話聞いてる?」 嘉穂の問いかけに、こっくり、とうなずいて見せる。 わたしはそのまま視線だけ動かして、壁にかかった時計に目を向けた。 ――午後10時。 嘉穂の家に来たのは確か6時頃だったので、もう4時間近くもこうして勉強していた、という計算になる。 そう言うと、嘉穂は「大事なのは『何時間勉強したか』じゃなくて、『いかに内容の濃い勉強が出来たか』なんだけどね」と肩をすくめた。 「……で、どうする? もう、けっこういい時間だけど。 そろそろ寝て、続きは明日にする? それとも、あとちょっと続ける?」 「……。もう少し、出来の悪いわたしにつき合ってください、カホ先生……」 「なら、もっとやる気を出す」 「はい……」 目をこすって、何度か瞬きをする。 自分の頬をぱん、と叩いて、眠気を飛ばしてからシャーペンを握った。 ――もう目前というところまで迫ってきている、定期テスト。 その準備期間最後の土曜日に、追い込みとして嘉穂の家に泊めてもらい、勉強を教えてもらう。 高校に入学してからというもの、それが毎回お決まりのパターンになっているのだった。 「……それにしても、カホは頭がよくていいよね……」 ココアをすすって、ビスケットをかじる。「テスト、いつもトップの方じゃん」 すると、嘉穂は苦い顔をした。 「別に、頭なんてよかないよ。 ……だいたい、テストの点数と頭のよさはイコールじゃないんだって」 「でも、悪いよりかは、なんでもいい方がいいに決まってるじゃん。 わたしなんて、いっつも順位、中の下だし。 それに多分、カホがいなかったら、もっとヒドい事になってるね。 ……あーあ。突然、未来を予知出来る能力とか開花しないかなあ。 そしたら、テストの問題とか全部解って、満点取れるのに」 「こらこら。現実逃避しない」 嘉穂が、シャーペンでこつんと頭をこづいてくる。 そうして、ふたりで笑い合う。 さて、と気合いを入れ直したところで、嘉穂が突然何かを思い出したように、「ああ、そういえばさ」と声を出した。
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