桐島夏美 ―今―

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―――― ―― 時刻は、午後11時30分になろうとしている。 わたしと嘉穂は同じベッドに入り、別段何かを話すでもなく、ただぼんやりと天井を眺めていた。 「…………」 あれからしばらくの間、わたしは嘉穂と勉強を続けていた。 けれどその間、わたしの脳裏には、見せてもらった例のネットの記事が、ずっとちらついていた。 ――自分が、過去に宛てたメール。 つまり、未来の自分からの、メール。 もし、そんなものを受け取る事が出来たなら――それはちょっと、すごい事なんじゃないだろうか。 嘉穂が、隣でころんと寝返りをうつ。 わたしは指先で、嘉穂の腕をつっついてみた。 「……ねえ、カホ」 「何?」 「さっき見たやつ、やっぱり気にならない?」 嘉穂は、んー、と唸り声を出した。 「正直、微妙。 そりゃあ、実際そんな事が出来たらすごいだろうけどさ。 ただ、現実的に考えて、そんなのが普通にネットに書いてあるわけないでしょ」 「でもさ、だったらなおさら、やってみようよ。 ……どうせデタラメなんだろうし、ダメもとで。ね」 嘉穂は、しばらく返事をしてくれなかった。 もしかして、眠っちゃったのかな――と考えていると、嘉穂はもそもそと動き、ベッドから出て、枕元に置いてあった電気スタンドを点けた。 セピア色の光が、周囲に溶け込む。 そのまま、嘉穂は何も言わずにベッドの上にすとんと座るので、わたしも起きて、その隣に座った。 スマートフォンを構えて、画面に映し出されている時間を見る。 時刻は、11時58分になっていた。 「……で、どうすればいいんだっけ」 「12時になったら、『新着メール問い合わせ』をするんでしょ。 それで、もし未来のわたしたちが、『12月1日、今日この日のわたしたち宛て』にメールを送っていたら、メールを受信出来るって事だろうね」 「送ってなかったら?」 「来ない」 「送って来い、未来のわたし」 「来るといいねえ……」 もう半分眠っているのか、嘉穂の呂律(ろれつ)はほとんど回らなくなってきている。 時間の流れが、やけにゆっくりに感じる中――その時は、来た。 午前0時。 わたしたちは、ゆっくりと指を動かした。
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