第1章

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 ズグンズグンズグンズグンズグン。  この音は、何だ。  それは、回送電車が猛スピードで目の前を通り過ぎる音だった。つよい風が、前髪を掠める。  腕時計の針は九時を指していた。取引先との会議が、予定より一時間以上も長引いてしまったのだ。会社には、明日までに終わらせなければならない仕事が山積みになって待っているというのに。 終電に間に合わなければ、今夜も会社に泊まるしかない。もう、三日連続だ。考えながら、僕はもう一度腕時計を眺めた。しかし、何度見たって時間は戻ってはくれない。  ズグンズグンズグンズグンズグン。  またこの音だ。  そういえば今日は朝に缶コーヒーを飲んだだけで、食べ物を口にしていない。空っぽの胃が、僕に何かを訴えかけているのだろう。捻じ切れそうに痛む胃を宥めるように撫でても、何の効果もない。  睡眠不足に、空腹、疲労。意識は朦朧としているはずなのに、頭は夢中で仕事の段取りを確認している。  その時、駅員のくぐもった声でアナウンスが流れた。僕が乗らなくてはならない電車が遅れているという知らせだった。  身体の奥から深い溜息が漏れる。僕の周りにいる人たちも、口々に「勘弁してくれよ」と呟いている。 (本当に、勘弁してくれよ)  取り敢えず売店で何か食べるものを買おうと、コートのポケットを探る。すると財布の隣で携帯が震えていた。 着信。相手は、上司だった。その名前を見ただけで、胃が更に強く痛んだ。 「はい」 『平山、会議終わったか?』 「はい。今から戻ります。でも、電車が遅れていて……』 『はぁ?……実は、明後日の企画が変更になってな。大至急で、webページと広告誌面の変更をしなければならなくなった』 『……変更……ですか』 『とにかく早く会社に戻れ!いいか!』
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