第1章

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 電話が切れる、ばつん、という音がやけに大きく響いた。  続けて、またあれだ。  ズグンズグンズグンズグンズグン。  もう、この音がどこで鳴っているのかすらわからない。身体の外側なのか、内側なのか。  携帯電話の画面に表示されているデジタル時計の数字が、一秒、一秒、時間を重ねていくのをぼんやりと眺め、僕は目を細めた。 (まるで、時間に首を絞められているようだ)  そう思った瞬間、画面が変化した。新規メール受信、という文字が表示される。普段なら、そのまま放置してしまうのだが、なぜかその時だけ、僕は無意識にそのメールを開いていた。  未読のメールが連なる受信ボックスの一番先頭に、おかしな件名のメールが届いている。 件名:『Does the Flap of Butterfly's Wings in Brazil Set Off a Tornado in Texas?』  差出人のアドレスはおかしなアルファベットの羅列。読まずに削除しようとしたが、僕には、その文章に見覚えがあった。 (……『ブラジルの一匹の蝶の羽ばたきは、テキサスで竜巻を巻き起こすか?』)  昔、学生の頃に見た映画で、そんな台詞を聞いた気がする。タイトルは、忘れてしまった。 本文:『拝啓、三年前の僕。 きみは、毎日忙しい日々を過ごしていることだろう。 こんなメール、きっと悪戯だと、すぐに消去してしまうんだろうな』  冒頭の文章に、僕は眉を顰めた。明らかに新手の迷惑メールだ。 『率直に言おう。 僕は、きみだ。 僕ときみは、イコールで、つまり、 きみは、僕。 僕は、三年後の、平山晃一だ』  僕の本名まで知らべてあるなんて、悪質過ぎる。不正請求か、詐欺か。僕はそのメールを削除しようとした。 『きみはオカルト的なことは信じないたちだ。そんなこと、僕がよく知っている。しかし、最後まで読んでおくれ。』  次の一文に、僕は息を吸い込んだ。
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