26人が本棚に入れています
本棚に追加
『今乗ろうとしているホームとは反対のホームに、もうすぐ電車が到着するだろう。それに、乗って欲しい』
無意識に僕は電光掲示板に視線を向けていた。反対のホームには、あと数分で電車が到着すると表示されている。奇妙なシンクロ。僕は携帯の画面に、視線を戻した。
『もし、そうしなければ、きみには不幸が起こるだろう』
は、と漏れたのは失笑だった。不幸の手紙、という言葉が頭にぽかん、と浮かぶ。
そんなもの、僕が子どもの頃にはもう既に絶滅していた。
『それを伝えるために、僕はこうやってきみにメールをしている。
しかし、運命は神様に与えられたもので、逆らうことはできない。とても難しいことだ。
その不幸が何なのかは、今の僕には言えない。しかし、想像してほしい。きみにとっての最悪とは?』
僕にとっての最悪は、仕事が終わらないことだ。毎日、毎日、こなしてもこなしても終わらないその作業だ。
(何なんだ、このメールは)
メールに思考回路を奪われてしまった自分自身に嫌気がさした。
『降格?会社の倒産?リストラ?不治の病を患うことか?』
そんな、想像もできないことばかりずらりと並べられたって、現実味はない。
『それともきみの一番大事な人を失うことか』
大事な、人?
瞼の裏側に、彼女の姿が浮かび上がる。最初は黒い影だったものが、次第に明るんでいく。しかしなぜか、顔にだけ靄がかかったままだ。
『最悪は、必ずきみに振りかかるだろう。そして、三年後、きみは、僕になってしまう』
ユリエ。
付き合って五年になる、僕の彼女だ。
優しくて、大ざっぱで、少し頑固な、僕の彼女。
飽きるほど見ているはずの彼女の顔が、なぜかまだ、はっきりと浮かんでこない。疲れているせいだろうか。
最初のコメントを投稿しよう!