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「――――――か」
「か?」
「…………じゃなくて、これ、買ってくる」
「え? 新田くん!?」
昭久は深浦の視線から逃れるように顔を背け、そのまま店の奥へと入って行った。
(危なかった……)
昭久はレジで会計を待ちながら、自分の胸元を押さえた。
心臓が嫌な感じでドキドキと高鳴っている。
(マジ、危なかった)
深浦と目が合ったとき、昭久はうっかり「かわいい」と口を滑らせてしまいそうになった。
別に深浦が女の子の格好をしているからというわけではない。
服装や髪型で女の子のように見せてはいるが、昭久の目から見るとやはり深浦は深浦。毎週火曜日の午後に学食で顔を合わせている男だ。
(わざとやってるわけじゃないよな)
深浦の性格からいって、あのあざとい言動をわざと狙ってしているとは考えにくいし、そんなことをする理由も思い当たらない。
天然のなせるわざにやられたのか、男だとわかっているのに昭久は深浦にうっかりときめいてしまった。
(あれは……反則だろ)
そう思いながらも、昭久に似合いそうだからと一生懸命にストラップを見ていた深浦の姿を思い出すと、つい顔が緩んでしまいそうになる。
(いやだから、違うだろ。あれはたまたま一緒にいたのが俺だったからで、深浦に深い意味はないんだって。横山と一緒にいたら横山に似合いそうなのを探していただろうし、他のやつとだったら……)
昭久はもう一度、胸元に手を当てた。
手のひらに伝わるドキドキはさっきよりも落ち着いている。
だけど、深浦が自分以外の誰かと一緒にいて、そして一生懸命にそいつに似合うストラップを探しているところを想像すると、今度は昭久のなかに正体不明のモヤモヤしたものが広がっていくのがわかった。
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