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点滴が無慈悲に僕の体に注ぎ込まれていた。
真昼間の異様な静寂に包まれた病室の中には、交通事故で無残な肉塊になってしまった僕と、僕の恋人がいた。ずっと僕の手を握っていた。
窓の外からうぐいすの鳴き声が聞こえる。
意思の伝達がかなわない僕の顔は、ずっと外の桜を見つめていた。
こんな春の日だっけ。あの他愛もない会話をしたのは。
僕がもし死んでしまったらどうする?
――泣くかな、ずっと泣く
じゃあ僕が死にたくても死ねない、死んだ方が楽になれるとしたらどうする?
――そしたら私は……
手を握りながらすすり泣いていた彼女は、やがて決意の表情に変わり、僕に優しい笑顔を向けた。
そして手を離すと僕の延命装置に手を伸ばし、話し掛けた。
「死んでください。私もすぐに会いに行きます」
そう言うと、再び僕の手を握り締めて、今度は号泣した。
騒がしくなる病室の中、僕はゆっくりと……
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