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「システム上問題がなければ買取しますよ。住民票も、保険証も、書類もそろっているわけですし。そもそも、そういうものを持出される時点で、危機管理ができていないと思いますよ。ここは、そういうビジネスをしているところなので」
虚勢だと気付いて、それにため息交じりに話す森崎は、今、心底面倒だと感じていた。
こんな対応はしているが、自分は決して冷血な人間ではない。
長い間、こんな仕事をしていれば、傷つくようなこともあったし、傷つけたこともある。
中には、思い出すのが辛いケースだってあるのだ。
「だから、どういうケースで名前を失った人にでも、抜け道を残すように、様々なプランを用意しているんですよ」
「だからって、売られた名前をすぐにあきらめられるわけじゃないでしょ」
「あきらめてもらうしかないですね」
きっぱりと言いながらも、森崎は女の必死さを分かっていた。
しかし、買い取りした名前は、次の日には既に売れているというのが今の現状で。
取り戻すことができないということは、決定事項のようなものだ。
もう、元の名前は誰かが買い取ったときよりも、さらに高額の値段で売られているはずである。
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