トラブルトレード

もう自分の名前が、知らない誰かに買われたのは逃れられない事実だと突き付けられた瞬間で。
もうムリだと分かってはいても、どこかに抜け道があるんじゃないかと、少しだけ期待していた女は、落胆を隠せなかった。

「ムリなのは分かってても、あきらめられないものです、大体の人は」

あなたは普通ですよというように、森崎はフォローになっていないフォローをした。

「どこかに葛藤はあるでしょうが、今はそれを飲み込んでください。今のままでは、あなたは生活すらままならない。なので、そろそろ本題に入りましょうか」

森崎にそう言われても、女はまだあきらめられないようで。
すがるような目で、森崎を見つめる。言葉はなかった。何と言ったらいいのか、分からないのだろう。

それに応えることはできないので、森崎はそれを無視することに決めた。

ソファの横に置いておいた鞄を手に取り、中からクリアファイルを取り出す。
その中には、現在、問題がある人間でも手に入れることのできる経歴のリストがあった。